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作品名:
青い鳥がくれた不思議なメール(前編)
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと / 橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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 「お父さん、お母さん、優奈、こんな僕をいつも励ましてくれて本当にありがとう。和輝より」
カーテンが閉じられた薄暗い部屋の中で和輝は手をふるわせながらパソコンに向かい文字を打っていました。
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいました。

「僕のモヤモヤ病は一生治らないのかもしれない」

外では朝を告げるスズメがチュンチュンと鳴いています。

「もう、朝か、夜更かししちゃったな」

鳥の鳴き声を聞きながら本棚を見ると絵本、(青い鳥)が目につきました。和輝はその絵本を見つめながら

「この本には幸せを運んでくれる青い鳥は、すぐそば居るって書いてあるけど・・・僕のところには居ない。
僕の元にも幸せがやって来るといいのに」

椅子にもたれかかりウトウトしていると

「ピンポーン」

メールの着信音がなりました。パソコンを見るとメールが届いています。件名には、

「人生は素晴らしい。感動することに意義がある」

と書かれています。和輝は不思議そうにそれを見ながら何度もつぶやきました。

「人生は素晴らしい…人生は素晴らしい」

しばらく考え込んでいましたが

『僕なんていつ死ぬかもしれない命だ。でも…感動する事に意義がある…か』

和輝は何故か件名にひかれ、そのメールを開いてみました。

「大空和輝君へ。君の人生は素晴らしい。君は幸せをつかみ、人々から愛されるために生まれてきた。
 君は幸せに生きるとは何か?よく考えてみるといいだろう。青い鳥は目には見えないが、
 人々に幸せをもたらす人のところへやってくる。送信者、幸せを呼ぶ青い鳥」

『僕は人々から愛されるために生まれてきた…青い鳥は目には見えないが、人々に幸せをもたらす人のところへやってくる』

和輝はもういちどメールを見ますが送信者のアドレスに思い当たりません。

『このメールをくれたのは一体、誰だろう?こんな文章が書かけるのはお父さんかな?』

和輝はしばらく考えていましたが、やはり青い鳥のメールアドレスには見覚えがありませんでした。
和輝はメールを気にしつつもベッドでいつの間にか眠ってしまいました。


コツコツ。和輝が眠っていると窓をつつく音がします。
目をうっすらと開け窓際に目を向けるとカーテンの隙間から美しい青い鳥が窓をつついています。

「幸せを運んでくれる青い鳥だ」

驚いて体を起こし青い鳥を見つめました。青い鳥はしばらく和輝の方を見つめていましたが、ヒュー。
吹きさる風とともにそのまま飛び去ってしまいました。

「は!」

思わず体を起こしました。外をみると窓から夕日がさしています。

「もう夕方か、夢…だったのか。不思議な夢だったな」

和輝が、ベッドから降りるとパソコンには新着のメールが届いていました。

「あれ?またメールが届いている」

メールを開くと送信者は青い鳥からです。恐る恐るメールを読んでみると、

「大空和輝君へ。私は、君のことなら、なんでも知っている。君は、多くの悲しみを知っているからこそ輝く人生になる。
 苦しみに負けず幸せに生きようとするなら、君は間違いなく幸せになれる。
 なぜなら、悲しみを知っている君のからこそ君の人生はすばらしいものになるからだ。送信者、幸せを呼ぶ青い鳥」

和輝は今までに感じたことの無い不思議な気持ちでメールを見つめていました。

「君の事なら何でも知っている・・・悲しみを知っている僕の人生は素晴らしい」

和輝はうなりながら、

『不思議な言葉だ…このメールの送り主は一体誰だろう?』

和輝は思い切って、青い鳥に返信してみる事にしました。

「どうして、青い鳥は僕をそんなによく知っているのですか?どうして僕にメールをくれたのですか?
 僕なんかに未来なんてあるはずが無いのに。きっと自分は脳の病気で死ぬんだって思っています」

和輝はメールを返信しました。しばらくカーテンの窓から差す夕日を眺めていると

「ピンポーン」

メールの着信音がなりました。

「また、青い鳥からだ」

早速、メールを開きます。

「大空和輝君へ。君は今、ひどく落ち込んで悩んでいるようだね。
 >どうして、僕の事をそんなに知っているの?
 <私は君がウィリス動脈輪閉塞症という病に悩んでいることも知っている。そして、君はウィリス動脈輪閉塞症が治らず、
 どうすれば良いのか、苦しんでいる事も知っている。君はそんな中、自分を見失い、部屋に閉じこもってしまった。
 でも人生をあきらめず、なんとか生き抜こうと頑張っているようだね。だからこそ、
 君が生きている今日は世界のどんな記念日よりもすばらしいのだ。苦しさの中の積み重ねがすばらしい人生を生むだろう」

「>僕になんか未来なんかあるはずが無い
 <君は多くの人々から愛される必要があるから生まれてきた。だから私も君にメッセージを送っている。
 自分は必要のない命だと考えているかも知れない。それでも君は一生懸命に生き、最後には愛される命になるだろう。
 だからこそ君はみんなから必要とされるには、どうすればよいのか考えて欲しい。最初からあきらめるのはもっともつまらない人生だ」

「>脳の病気で死ぬんだって思っています<君が、多くの人から愛されたい。
 そう強く願うなら、君は素晴らしい人生を生きる事が出来る。私は君にその力があると信じている。
 君の運命は君自身が決めることだから。さあ部屋に閉じこもっていないで、外に出てみよう。君を受け入れてくれる人々はきっと見つかる。
 そして、君が希望を持って人生を生きようとするなら、無限の可能性を秘めた青い鳥を手に入れたようなものだ。
 とにかく、少しだけでも外を歩いてきてみよう。帰ったらまたメールがほしい。幸せはもうそこまで来ているのだから」

和輝は夢中になってメールを読んでいました。

『本当に不思議なメールだ。医学にも詳しいし…このメールをくれたのはお医者さんかな?
 お父さんがお医者さんにメールを送るように頼んだのだろうか? ウィリス動脈輪閉塞…もやもや病の別名かな?』

和輝はぼんやりとカーテンから差す夕日を眺めていました。

『外を歩いて来なさいか。ひょっとしたら庭に幸せの青い鳥が来ているのかもしれない』

和輝は恐る恐る玄関のドアをゆっくりと開けました。外からは春の暖かい風が入ってきます。

「長いこと閉じこもっていて分からなかったけど、もう春なんだ」



数ヶ月ぶりの外出で体中に夕日を浴びた和輝は何故か肌が痛く感じました。

「青い鳥が来てないかな?」

和輝は足を引きずりながら庭を少し歩いてみました。塀の向こう側から知らないおじさんが歩いてきます。
そして足を引きずって歩く和輝の姿をチラと見ました。

『うわ、見られた。やっぱり誰かに見られるのは嫌だな』

和輝は庭をひと回りし青い鳥が来ていないことを確かめるとそのまま逃げるように家の中へ入って行きました。玄関の戸をしめると、

「久しぶりに外に出て日を浴びた。やっぱりみんな自分を馬鹿にしているようだ。なんだか、いやだな」

そうつぶやくと部屋に向かって少しずつ歩いて行きました。途中、台所からため息が聞こえてきます。
そっと中をのぞくと両親の姿が見えます。

「和輝にもっと良い治療をうけさせてあげたいけど、やっぱり無理かな」

お母さんはそういってうつむき涙ぐんでいます。お父さんも辛そうな顔で

「うーん」

と言ったまま腕を組んでいます。

「お…お母さん、お父さんごめんなさい」

和輝はつぶやくと部屋に閉じこもりました。部屋に鍵をかけパソコンの前に座りました。カチコチカチコチ。時を刻む音だけが静かに聞こえてきます。

『神様、どうか僕の元にも幸せを呼ぶ青い鳥が来てくれますように…』

夕日が沈んだ暗い部屋の中で一人うつむいていると、

「ピンポーン」

再びメールの着信音がなりました。送信者はやはり青い鳥からです。

「大空和輝君。外は歩いてきたかな?幸せは見つかったかな?」

和輝はすがるような気持ちでメールを返信しました。

「メールをくれた青い鳥さん、僕を励ましてくれてありがとう。言われた通り、外に出てみました。
 でもみんなの視線が気になって、僕を馬鹿にしているように見えます。お父さんもお母さんも疲れ切っているし、
 僕にはどうしたらいいのか分かりません。もし青い鳥が本当にいるのなら僕の元に来てほしい」

和輝は疲れ、ぐったりしながら

『このメールを送ってくれる、幸せを呼ぶ青い鳥って一体誰なんだろう』

和輝は時が止まったかのような静かな部屋で一人考えこんでいました。静寂の中

「ピンポーン」

またメールの着信音が鳴りました。和輝は急いでメールを開きます。

「大空和輝君へ。君のようにこの病に苦しんでいる人々は沢山いる。
 その人たちも君と同じように悩み苦しんでいる、苦しさを分かち合える仲間は世界中にいる。
 だから将来、君にはきっと沢山のお友達ができるだろう。お父さん、お母さんは君の事をとても心配している。
 お父さん、お母さんに感謝しなさい。おまえを命がけで守ってくれているのは、お父さんとお母さんだから」

和輝はメールを何度も読み直しました。

『青い鳥は何故、僕の事をこんなによく知っているのだろう?』

和輝はいくら考えてもわかりません。思い切って家族に聞いてみる事にしました。



▲▲▲▲ 2015年3月29日 次回に続く ▲▲▲▲