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作品名:
大富豪の肖像
シリーズ:高校生の為の紙芝居原作シリーズ
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと / 橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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(ロゴ・タイトル)
(1P)
 2018年、ここはアメリカのガス鉱山。19歳の若者、ウィリアムはガス会社で働く新入社員。
今日もせっせとシェールガスの採掘作業を行っていました。しかし…


(2P)
シェールガスが世界中で増産されエネルギー価格が下落。
ウィリアムの働いていたガス会社は不良鉱を抱え、とうとう赤字で倒産してしまいました。


(3P)
ガス会社の元社長、イーサンは社員を集めて言いました。

「今まで良く働いてくれた、給与も払えず申し訳ない。
 もし私の私物や会社に残っているもので欲しいものがあれば、給料の代わりに持って行ってくれ」


ウィリアムは会社にあった安物のバイクをもらい、ガス会社と別れを告げました。


(4P)
住むところもなく、手持ちの金はわずか3000ドル。古いバイクを見て、

「はあ~」

と大きくため息をつきこれからどうしようか悩んでいました。すると、

「どうした? 若いの、元気がないぞ」

突然、声をかけられました。そこにはバイクでアメリカ中を旅する中年の男がいました。


(5P)
ウィリアムは会社が倒産して、行くあてがない事を話しました。その男は、

「うーん」

とうなっていましたが、何かに気付いたのかハッとしたよう言いました。

「なあ、バイクもあるみたいだし、思い切って宝探しをしてみないか?」
「宝探し?」
「ああそうだ。ここから東に100マイルぐらい離れたところで海が見える。そこから2、3マイル先に島があるんだ」

ウィリアムはその男の話に真剣に聞き入っていました。


(6P)
「その島は、大富豪が所有する島だったんだ。島の奥にはその富豪の家がある。
 その富豪は7~8年前に亡くなって、その島の買い手もつかず、荒れ放題なんだが…この島には、あるウワサがあるんだ」


(7P)
「その大富豪は死ぬ前にその家に金のインゴットを大量に隠したらしい。
 本当か、ただの噂かは分からないが、元富豪の家だ。島は無人だし、訪れる奴もいねえ、何か見つかるかもな」

それを聞いたウィリアムは男に、島までの道を教えてもらい、すぐにバイクを走らせました。


(8P)
途中の店でチョコレートや水、缶詰などを買い込み島を目指します。
ウィリアムは、バイクを走らせながら静かにつぶやきました。

「俺は、その島で人生、最高の宝を手に入れ幸せになるぜ」

野宿をし、翌日、島が見える港に着きました。


(9P)
島までどうやって行こうか悩んでいると港にいたお年寄りの漁師が声をかけました。

「どうしたんだい。兄ちゃんさっきから島を眺めているけど」
「実は俺、アウトドアが好きでさ。あの島で一晩、過ごしたいんだけど」

漁師は笑って、

「ははは、島まで10分ぐらいだし、俺の船に乗っていくかい?」

ウィリアムは嬉しそうに目を輝かせ、船に乗せてもらう事にしました。


(10P)
走る船。白い泡立つ波に乗りながら島に向かいます。ウィリアムが近付く島を眺めていると、漁師が

「あの島で一晩、野宿か…兄ちゃん一人で勇気があるな」
「え?」

ウィリアムは何の事か分からず漁師を見つめました。漁師は、

「あの島は、昔、大富豪が所有していたんだ、だが7年程、前に亡くなってあの島では…
 特に富豪の家で亡霊を見た人がいるらしい」

ウィリアムは笑いながら、

「は、ははは。島を回るだけだから大丈夫さ」


(11P)
島に着くと漁師は、

「また、明日の夕方にでも、迎えに来てやるよ。まあ島で十分楽しむんだな」

ウィリアムは笑いながら船を降り、

「この島で、何か素敵なものが見つかりそうな気がするよ。漁師さんありがとう」

漁師は笑うと、ウィリアムを残し帰って行きました。


(12P)
 ウィリアムは荒れて草木の茂った道を歩き続けました。そして夕方、ようやく大富豪の家に着きました。
家は人が住んでいないため古くなり、あちこちの窓ガラスが割れて、荒れていました。


(13P)
 大きな家の周りを回り入り口を探します。
裏口の割れた窓から手を伸ばしカギを開けるとギーと不気味な音を立てて扉が開きました。


(14P)
ウィリアムは大きな屋敷の入ると、金目のモノがないか探します。ロビーに着くと…人影が見えます。

「う、うわ。この屋敷の亡霊か!?」

ウィリアムは驚いて後ずさりをしました。が、良く見ると、それは富豪の肖像でした。
富豪の肖像はどことなく悲しそうな目をしていました。ウィリアムは、

『この人がこの島の持ち主だったのか…金も、家もあるのに、妙に悲しげな顔をしているな』

住むところすらない、ウィリアムにとってはその悲しげな肖像画は不思議に思えました。


(15P)
1階で金目の物を探しますが見当たりません。
ウィリアムは、2階に上がり、寝室だったと思われる部屋をのぞきました。


(16P)
 部屋の奥には鏡がありました。するとその鏡にさっきの肖像で見た富豪が映っていたような気がしました。
ドキリとして部屋を見渡しますが誰もいません。ウィリアムは寝室を探し始めました。


(17P)
しばらく探してみましたが期待したようなものは何も見つかりません。ウィリアムは、ため息をつき

「何も見つからない。ダメか。ただの噂だったのか。宝なんて、こんな島にあるわけないよな」

そう独り言をつぶやいた時、引き出しの中に何か入っているのが見えました。
さっそく引き出しを開けてみると…


(18P)
それは日記帳のようでした。どうやらこの島の持ち主が書いたようです。
ウィリアムは何げなく、その日記帳を開いてみました。


(19P)
私は1987年10月19日のブラックマンデーで株が暴落し多くの財産を失った人々を見て、
金持ちになろうと思った。金があれば幸せも買えるだろうと…


(20P)
資産家を目指して、起業の勉強をした。毎日の努力を続けようやく自分の適職を見つけて取り組んだ。
結果、私は大きな財産を得て、この暖かい気候の島を手に入れた。だが…。

私は毎日が不安だった。経営はうまくいったが同時に自己努力すらしない者達から、ねたまれ、訴訟すらおこされた事もあった。


(21P)
お金は得たが幸せになれない孤独な資産家だった。人生の幸せは必ずしも資産だけが左右するものではない。
金も大事かもしれない、だが自分の弱さを認め、それを補ってもらい人は成長していく、そしてその先に
真の目的人生の意味があるように感じた。人にはそれぞれ魂の目的がある。
必ずしも金だけを求めるべきではないと悟った。


(テロップ)
 真の人生の目的は、ありのままの自分自身を見つめる事から始まる。
そして魂の目的を成し遂げたものこそが本当の成功者なのだ。
生きがいは自分自身を見つめ、自分自身が求める道を歩むことから始まるのかも知れない。


(22P)
翌日の夕方ウィリアムは日記帳を片手に船に乗っていました。富豪の悲しみが漂う島を後にしながら。
港についた漁師は、

「どうだい。島は楽しかったか? 何か見つかったかい?」

そう訪ねると、ウィリアムは


(23P)
「ああ、見つかったよ。ありのままの自分と言う魂の宝に」

ウィリアムはお礼を言うと笑顔でバイクに乗り、夕日に向かって走り去って行きました。漁師はウィリアムに手を振り

「兄ちゃん。笑顔と感謝の気持ちを忘れるなよ」

夕日の中に素敵な未来が見えたような気がしました。



▲▲▲▲ 2014年10月20日完結 ▲▲▲▲