▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
作品名:エメラルドスターの英雄

原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと / 橘 かおる
イラスト:ここりん

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 昔々、小人が住むエメラルドスターという大国がありました。この国に、動物を愛する、王女が住んでいました。
王女の名はフィアナ。フィアナは隣国フィリアス島の王子フィリップの誕生会によばれて以来、王子と仲良くなりました。
フィアナは数年前に慕っていた母を病で亡くし、寂しさが募っていました。
その寂しさを埋めてくれたのがフィリップ王子でした。フィアナは次第にフィリップ王子に心を惹かれていきました。


そして、誕生会に参加してから数ヶ月後にはフィアナとフィリップ王子は恋文を交換するようになりました。しかしある日、
フィアナの父である王にフィリップ王子と恋仲で、文通をしていた事が見つかってしまいました。
フィアナがフィリップ王子に恋心を寄せている事を知った父は、

「フィリアス島のような小国の王子と仲良くなってはならん。お前は立派な大国の妃となり、この国をさらに繁栄させるのだ」

 父に厳しく言われ、フィリップ王子との恋仲を裂かれたフィアナは部屋に閉じこもって泣いていました。
やがて冬が来て外では小雪が舞っています。フィアナはフィリップ王子からもらった手紙を読み返して、深くため息をつきました。
暖炉でパチパチと燃える薪を見ながら、寂しそうに、

「フィリップ様は今頃、どうしているのだろう。長い間、返事を書いていない。
 フィリップ様は私の事を、もう忘れてしまったかしら? フィリップ様にもう一度、会いたい」

 すると、どこからともなく不思議な声が聞こえてきました。

『何も心配はいりません。人々を思いやる気持ち、愛する人を純粋に思う気持ち、それこそが国の指導者にとって大切なものです。
 多くの国民はその気持ちを求めています』

 フィアナはハッとして顔を上げました。

『亡くなった、お母様の声が聞こえた…。お母様、寂しい

 フィアナが壁に掛けてある亡き母の肖像画を見つめていると、コンコンと何かを叩く音がしました。
窓の外を見ると、見たこともない鳥が窓をつついています。鳥は、フィアナと同じぐらいの大きさでした。フィアナが窓を開けると鳥が覗いて、

「こんな真冬にスミマセン。今、外では食べ物がないんです。空腹で死にそうです。何か食べさせて頂けないでしょうか?」
「まあっ。こんな寒い中、食べる物が無いなんて何か食べ物があるかしら

 あたりを見回すとクッキーが残っていることに気がつき、こんな物でよければと鳥にクッキーを差し出しました。
鳥は、よほどおなかがすいていたのでしょう。夢中でガツガツとクッキーを食べました。クッキーを食べ終わった鳥は、うれしそうに、

「お姫様、ありがとうございます。おなかがいっぱいになり助かりました。お礼がしたいのですが、私でできる事があれば何でも言って下さい」

 フィアナの顔が思わず、ほころび

「鳥さん、私はフィリアス島のフィリップ王子を愛しています。しかし、お父様が厳しくて、フィリップ様に手紙を出すことすら許してもらえません。
 今から手紙を書くのでフィリップ王子に渡して頂けませんか?」

 鳥はうれしそうに、

「おやすいご用ですよ。ここから30分ぐらいでフィリアス島まで行けますから」

 フィアナは急いで手紙を書き終えると鳥の足にくくりつけました。鳥はフィアナが足に手紙をくくり終えると、バタバタと羽ばたいていきました。
こうして鳥の協力でフィリップ王子とまた文通をする事ができ、季節は春になりました。


 春になったエメラルドスターには、雪解けの清流が流れ、あちこちで花が風にゆれています。
農夫達は畑に穀物の苗を植え始めました。

 エメラルドスターの雪解けを知ったフィリップ王子は決心しました。

『フィアナをなんとしても妃として迎えたい。雪が溶けた今ならフィアナを迎えに行くことが出来そうだ』

 フィリップ王子は、エメラルドスターへやってきて、王にフィアナを妃として迎えたいとお願いをしました。王は静かに威厳ある声で、

「わざわざエメラルドスターまで出迎えご苦労だった。だが、お前のような小国の王子などに娘は渡せない」

 王子に婚約の断りを入れようとしたときです。大臣が息を切らしてやって来ました。

「王様、会談中に申し訳ありません。大変です」
「どうした? 騒がしい」

「暖かくなったので、農地に食料用の穀物を植えたのですが害虫が大量に発生して大きな被害が出ています。
 このままだと、今年は飢饉になるかもしれません」

王は驚いて、

「何、それは大変だ。農夫達だけで害虫の駆除はできないのか?」
「王様、恐れながらそれは困難と思われます。今年はどうした事か異常に害虫が大量発生しています」

 その時、フィアナにクッキーをもらった鳥がバタバタと木から下りてきました。鳥は王に頭を下げると、

「王様、私は真冬にフィアナ様にクッキーを頂き命が助かりました。私は、フィアナ様もフィリップ王子も立派な方であることを知っています。
 結ばれればきっと2人は幸せになり両国の友好関係を築くことが出来ると思います。
 そこで王様に提案です。私たちの仲間が、農地を荒らす、害虫を退治しますので、もし農地がよみがえったらフィリップ王子と、
 フィアナ様の結婚を認めてあげて下さい。王様に民を思う気持ちがあるのなら

王様は考え込んでしまいました。フィアナは、

「お父様、私からも、お願いします。もし農地が荒れてしまえば国民が飢えるかも知れません。
 どうか鳥さんのお願いを聞いて下さい」

 しばらく考えてから王様はうなずきました。すぐに鳥は仲間を連れて農地へ飛び立っていきました。
1週間後、農地の害虫は鳥たちによって退治され、穀物は元気を取り戻しました。
農夫達が安心して農作業に従事している様子を王は、黙って見つめていました。


数ヶ月後、フィリップ王子とフィアナ王女は結婚しました。結婚式は盛大に挙げられ、エメラルドスターの農夫達はフィアナ王女を、
「我が国を飢饉から救った英雄」
 と、讃えました。
その後、フィアナとフィリップの間に子供が生まれ2人は幸せに暮らしました。
フィリップ王子の妃となったフィアナは幸せそうに赤ん坊を見つめて、

「お母様、ありがとう。今、私はとても幸せです」

 とつぶやくと、赤ん坊が声をあげて笑いました。その後、エメラルドスターと隣国、フィリアス島との友好関係は末永く続き、
両国民は幸せに暮らしたということです。



▲▲▲▲ 2014年12月23日 完結 ▲▲▲▲