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作品名:瑞穂守りのお宮さん
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
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【第1部 あれた集落】
和歌山県南部地方、急峻な山間に囲まれた土地に小さな集落がありました。この集落の中央には川が流れ、
川沿いには小さな田畑が並んでいました。ある年の秋、稲の収穫が目前という時この地方を台風が襲いました。
川沿いの民家や田畑が水没し田畑のすぐ近くにあった、この集落を守る小さなお社も水没してしまいました。
台風が去った後、稲は洪水で倒れてしまい、モミは泥まみれです。お社も水没し境内は泥でおおわれておりました。
収穫目前の稲が泥水で倒れている様子を見た村人達は、大きくため息をつくと
「田畑も荒れてしもうた…。氏神様も泥まみれになってしまい…すまんこっちゃのう」
側にいた、別の村人が…
「そうじゃ。神様を水の来ない高台に移ってもらうのがええんと違うかのう。これじゃ神様に気の毒じゃ」
集落で話し合いが行われ、社のご神体を高台へ移す事に決めました。
洪水の後片付けも一段落ついた秋のある日、社を移すため神が宿るとされるご神体の石を持ち上げようとしました。
ところが、重たくて、一向に持ち上がりません。
「うんしょ、うんしょ、えらい重たい石だ」
村人は若い衆を3人ほど連れて来て、運び出しました。男3人は、汗を拭きながらご神体を高台まで持ち上げて行きます。
「ずいぶんと、重たい神様じゃ」
そう言いながら、ようやくご神体を高台へ移動しました。
「ふう、疲れた…これで神様も泥水につからないし安心じゃ」
村人たちは安心したように、家に帰って行きました。
その日の夜。ご神体の運び出しに関わった、3人の若い衆が苦しみ出したのです。
「うーん。体がしんどい」
若い衆の家族達は心配でたまりません。3人が苦しんでいる様子を見て、村人は医者に連絡しました。
さっそく医者が来て診てもらったのですが一向に苦しんでいる原因がわかりません。その様子を見ていたお年寄りが、言いました。
「もしかして、ご神体を勝手に動かしたのが悪かったんじゃなかろうか? 3人は、今日ご神体を運び出した者ばかりじゃ」
「そうじゃ。神様は動きたくなかったんと違うか?」
村人は、高台に移したご神体を、元の場所にもどす事に決めました。
【第2部 稲穂守りのお宮さん】
翌朝、村人は高台に安置していたご神体を元の場所に戻す為、石を持ち上げました。
ご神体の石は昨日に比べると驚くほど軽く、一人で十分、持ち運べる重さになっていました。村人は不思議そうに言いました。
「おかしい、昨日はあんなに重かったのに、今日は、まるで違う石になったみたいだ」
村人は一人で石を持ち高台の坂を下っていきました。村人は、
「人間の力で神様の意志に逆らうのは不可能な事なんだ」
と呟き
「勝手に、ご神体を移してしまって申し訳なかったです」
と話ました。ご神体を元の場所に安置すると、それまで苦しんでいた3人の若い衆の体調が徐々に回復していきました。
「無理に動かさなくてもええよ。村人が正直な努力を重ねて、幸せになれたらそれで十分」
どこからともなく、ご神体の石を運び上げた3人の男の元で誰かがささやいたような気がしました。
後日、村人達がお社に集まり
「神様、勝手に高台へ移して申し訳ないです」
とご神体に手を合わせたところ
「神聖な神気の流れは人間の力ではどうにもなるものでない。私たちはここに祭られて、
清流の気を受け、この区に住んでいる村人達をいつも見守っているんだよ。だからここがええの。
何にもせんでええ。村人が好きだからね、しょっちゅう神罰は与えるものでもないし、怖がらんでええよ」
静かな境内の中、村人達の魂に神の言葉が響きわたりました。その日の川は静かなせせらぎで穏やかに、流れていました。
【取材先】
和歌山県 新宮市 熊野川町
▲▲▲▲ 2013年12月11日 完結 ▲▲▲▲