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作品名:いつまでも、一緒だよ
企画・原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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【第1部 黒猫と白ウサギ】

 昔々の中央ヨーロッパ。この国の町外れにある草原で白ウサギと黒猫が楽しそうにじゃれ合っています。
2匹はこの草原で出会い、仲良くなり毎日のように遊んでいました。ご飯を食べるときも、眠るときも一緒。
寒い日は肩を寄せ合って寒さをしのいでいました。

 秋が深まったある日、白ウサギと黒猫は仲良く食事をしていました。
ご飯を食べ終わると、2匹はじゃれ合いながら

「僕たち、いつまでも一緒にいたいね」

と話しました。

「白ウサギちゃんはどうして、お父さんお母さんと一緒に住んでいないの?」

黒猫が聞きました。白ウサギは黒猫の周りをピョンピョンと跳ねながら

「私は生まれたときからずーと独りだったの。産んでくれたお母さんの事も知らない」

黒猫は黙って話を聞き、白ウサギにそっと寄り添い顔のまわりをペロペロなめました。白ウサギは、

「黒猫君こそ、どうして独りでこの野原に住んでいるの?」

黒猫は空を見つめて、

「僕は人間の元で飼われるはずだった。でも生まれたとき、全身の毛が黒くて、
黒猫は魔女の使いだから災いがもたらされるかもしれない、捨ててこようって。それで捨てられたんだ」

「えー。魔女の使いだと思われてお父さん、お母さんと引き離されて捨てられたの?」
「うん僕は、ただの捨て猫にすぎないよ。今頃、お父さん、お母さん兄弟達は何をしているんだろう」

白ウサギは何も言わず、黒猫に寄り添いました。
 2匹は草原で仲良く遊んでいましたが秋の深まったある日。若い女性と幼い男の子がやってきました。
男の子は白ウサギをみつけると指を指しながら、

「ママ、白いウサギさんがいるよ」
「まあ、丸くてフワフワして可愛いウサギさんね」
「僕、このウサギほしい」
「そうねお家が広いからウサギさんを連れて帰ろうか?」

男の子はウサギに近づくと、そっと撫でた後、優しく抱きかかえました。
そして、うれしそうに白ウサギを見つめて

「この子、フワフワしている」

白ウサギは、男の子の腕に抱かれながら

「え、ちょちょっとまって、私にはお友達がいるの

男の子と母親は白ウサギを連れていってしまいました。
その様子を草むらの陰から黒猫は見つめていました。黒猫は

「お、おい白ウサギちゃん、どこへ行くんだよ。人間達、僕の友達をどこへ連れて行くの?」

ヒュー。北からの冷たい風が黒猫の言葉をかき消すように吹き抜けていきました。
黒猫は突然の出来事に呆然と立ちすくんでいました。それから、白ウサギと交わした言葉を思い出しました。

『ずーといつまでも一緒にいたいね』

白ウサギをつれて行かれた黒ネコは落ち込んでいましたが気を取り直すと
白ウサギの臭いを頼りに走り出しました。石畳の路地を通り、途中では犬に吠えられながら慌てて、
階段を登って行きます。必死に白ウサギの臭いを追いかけていましたが、10分ほど走ったところで
臭いが消えてしまいました。目の前には魚屋があります。おなかのすいた黒猫が店の中をのぞいていると、
魚屋の店主が大声で怒鳴りました。

「こら、泥棒猫。さっさと出て行け」

黒猫は慌てて立ち去りました。通りを抜けると、そこは広場になっていて、噴水が見えます。
黒猫は噴水からわき出る水を少し飲みました。一息ついて、

「白ウサギちゃん一体どこへいったんだろう?」

キョロキョロと周りを見渡していると、大きな茶色の毛のどら猫が近づいてきました。
どら猫は側に寄って来ると、

「おめえ…あんまり、みかけない顔だな。どこから来たんだい」

「えーと町の外れにある草原から来たんです。僕の友達の白ウサギちゃんが
人間に連れていかれて行方がわからないんです」

どら猫はしばらく考えていましたが

「この路地を上って行くと小さな通りに出る。その辺の家で白いウサギが入っていくのを見たぜ」

黒猫の表情がパッと明るくなりました。

「大きな猫さんありがとう」

そう言うと石畳の坂道を走っていきました。


【第2部 黒猫の友情】

坂を登り切り、通りにある家の中をのぞきながら歩き続けます。
三軒目 四軒目 五軒目…家の中をのぞいては、白ウサギがいないか様子をみて黒猫は歩き続けました。
そして六軒目、塀に飛び乗り目の前の窓から中をのぞいてみました。
暖炉のそばで白ウサギは休んでいました。黒猫はうれしくなって思わず叫びました。

「あ、白ウサギちゃんがいる僕だよ、黒猫だよ」

しかし、声は厚い窓ガラスに遮られ中々、部屋の中まで届きません。黒猫はがっかりして帰る事にしました。
 それから黒猫は毎晩、路地を通ってはウサギのいる家の窓からのぞいてみました。

「今日はウサギちゃん、いなかった…奥の部屋にいたのかな?」
「今日はウサギちゃん、ニンジンを食べていたな元気そうで良かった」
「今日は男の子の手の中でかわいがられていたな。なんとか声をかけたいけどどうしよう」

ウサギの元へ通い続けたある日、黒猫が窓の外から白ウサギを見つめていると、男の子が黒猫に気がつき

「ママ、外に黒猫がいるよ」

お母さんはすぐに玄関から出てきて

「この魔女の使いめ! 早くでておいき」

黒猫は冷たくあしらわれ、一目散に逃げ出しました。路地を走り続けて、
後ろを振り返ると、人間が追いかけてくる様子はありません。呼吸を落ち着けると、黒猫はため息をつき

「あ~あ。また追い出されちゃったなんで僕は黒猫なんだろう
 
白ウサギ君みたいに毛が白かったら大切にしてもらえるのに

日がかげり、小雪が舞っています。季節はすっかり冬になっていました。
夜もふけ月がのぞいています。黒猫は肩を落としながら路地を歩き、そして噴水の前までくると座りました。
噴水の水は冷たく凍りそうです。わき出る水を飲んだ後、噴水からおりて水たまりの前で腰をおろしました。
凍りかかった水たまりは雪雲の切れ間から差す月の光で黒猫の顔をうつしていました。
黒猫がボンヤリと水たまりをみていると、

「よう黒いの、久しぶりだな…最近は寒いが元気か?」

声をかけたのは、あの茶色い大きなどら猫でした。
どら猫は黒猫の様子をよく見つめていたらしくやがて言いました。

「おめえ何を悩んでいるんだ?」

黒猫はため息をつくと、

「友達の白ウサギちゃんが人間に連れて行かれてひとりぼっちになってしまったんだ。それで
「取り返そうとでもしたのかい?」
「うんでも黒猫の僕は人間にすぐに追い返されてしまって家に入る事すらできない」

静かな時がながれていきます。パチャパチャと噴水の水のはねる音が
誰もいない静かな広場に響いていました。やがて黒猫は

「もう、取り返せないのかもしれない。もしかすると白ウサギちゃんは僕と一緒にいるよりも
 人間と過ごすほうが幸せなのかもしれない。暖かい部屋の中で食べ物にも困らないし」

大きくため息をついて、

「ふうー。僕は人間に嫌われて捨てられた黒猫。白ウサギちゃんは、
 毛も白いしきっと人間にかわいがられて幸せだろうな」

どら猫は黙って聞いていましたが、やがてゆっくりと口を開きました。

「おめえ本当にそう思っているのか? 白ウサギが幸せだと?」

黒猫は、うつむいて思い悩んでいます。

「白ウサギが本当に、おめえとの友情を感じているなら、今でも待っているかもしれないぜ。
 本当の友情とはそんなもんさ。そいつの為に走って何度も声をかけることだよ。
 本当の友情は人間でいう金や保身なんかに簡単にふりまわされないもんさ。
 その白ウサギもおまえに友情を感じているなら、会いたがっていると思うぜ。
 そのうち家から出てくるさ。友情ってそんなもんだと思う」

黒猫はハッとしたように顔を上げました。どら猫は

「白ウサギも早く、そこから出たいと思っているかも知れないな。大切な友達を失ったんだから」
「白ウサギちゃんが僕を必要としてくれているという事?」

どら猫は雪雲の切れ間から、差す月明かりを見つめながら

「俺にはよくわからないがでもおめえに友情を感じていたなら毎日、
 おめえの事を心配しているんじゃないのか? 自分自身より他人を思いやるのが友情なのかもな

どら猫は黙って去って行きました。黒猫は、噴水を見つめて

「自分より他人を思いやるのが友情

と何度も口ずさんでいました。


【第3部 二人は一緒】

その頃、暖かい部屋で飼われている白ウサギは、

「ご主人が黒猫を追い払ったみたいだけど、もしかして、お友達の黒猫君かも…」

白ウサギは小雪が舞う外を見つめて

「黒猫君、突然のお別れだったね。君は人間に捨てられ、僕は拾われる。
 どうして同じ命なのに、毛の色が違うだけでこんなにも扱いが違うんだろう。黒猫君に会いたいな」

白ウサギは窓についた小雪を見つめて黒猫の様子を心配していました。

木枯らしが吹く夜、黒猫は毎晩、白ウサギの様子を見に行きました。黒猫はよく人間に見つかって
追い回されたり、時には氷のような水をかけられたりしました。しかし黒猫は何度追い出されてもあきらめず
白ウサギの様子を見に行きました。ある日の事、白ウサギが毎日来る黒猫に気がつきました。
白ウサギは少し太った体で重たそうに、

「よいしょ、よいしょ」

と家具の上に乗り、ようやく窓際に近づくとうれしそうに黒猫に話しかけました。

「黒猫君、私を忘れていなかったんだね」

黒猫は、

「白ウサギちゃんがいなくて毎日が寂しかった。でも僕は黒猫だからすぐに追い払われてしまう。
 だから毎日少しだけ様子を見に来るね。暖かい部屋の中で人間に大切にされて幸せそうでよかった」

白ウサギは大きく首を振り

「黒猫君の事、毎日考えていた。寒いのに大丈夫かな…なんて心配していたよ。
 そんなに私の事を思っていてくれたんだね。ありがとう」

黒猫はうれしくなって窓に手をあてました。白ウサギは気が付いたように言いました。

「そうだ、私がこの家からでればいいんだ」

黒猫は、

「今は冬だよ。寒いし、食べ物を探すのも大変だ

白ウサギは首を振ると

「君がいればなんとかなると思う。君と一緒にいる方が、暖かい。
 こんな家の中で飼われた生活よりも黒猫君と一緒に遊びたい。
 外を自由に走り回りたいし、その方が私にとっては幸せだから」

春が近づいたある日、白ウサギはいつの間にかその家からいなくなっていました。
男の子も母親も一緒に白ウサギを探しましたが見つかりません。男の子は

「白ウサギちゃんどこへ行ったんだろう。大切にしていたのに、いなくなっちゃったね」

部屋を探し、庭を探しましたがどこにもいませんでした。男の子はため息をついて、
空を見上げるとそこには、ネコとウサギのような形の雲が漂っていました。
その様子はまるで二匹がじゃれ合っているようでした。男の子は雲を見て

『僕の部屋で飼っていたウサギが青空で遊んでいるみたい』

そう思った時

「ずーと、いつまでも一緒だよ」

そんな声が青空から聞こえたような気がしました。



▲▲▲▲ 2013年11月25日 完結 ▲▲▲▲