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作品名:感謝のおにぎり
原 作:清原 登志雄
校 正:橘 かおる/橘 はやと
イラスト:姫嶋 さくら
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昔々、東北地方の山間に貧しい農村がありました。梅の花がつぼみをつけ始めた頃、
この村では食べ物がなく村民は困っていました。この貧しい村に父と娘の親子が住んでいました。
娘は幼いころ、母を病で失い、今また、父も病気で寝込んでいました。その病の父の世話を娘が1人でしていました。

「おとう、おかゆが出来たよ、食べてくれ」

差し出されたおかゆを見ながら、父はすまなさそうに、

「スズ、いつも心配ばかりかけてすまないな。ありがとう」

そう言っておかゆをすすりました。その様子をこっそりと、家の外で見つめる、老婆の姿がありました。

 数日後、スズの家では、米びつの底が見えてきました。困ったスズは村人にお米を分けてもらえるよう頼んで回りましたが、
この季節はどの家も食べ物がありませんでした。

夕日が射す中、スズはうなだれ、家路を歩いていました。庄屋の家の前を通りすぎた時の事です。
庄屋さんは立派な着物を着て、息子さんは洋服を着ていました。

家に帰ると、スズは台所に行きましたが、米や野菜はもう2~3日分しか残っていません。
スズは、村民から冷たく追い返された悲しみと、庄屋の幸せそうな様子を思い浮かべていました。
ぼんやりと、台所に射す夕陽を眺めながら、

『いつになったら、この貧しい生活から抜け出せるのだろうか?
 こんな貧しい自分を必要としてくれる人なんて、この世にいるのだろうか』

 翌日の真夜中でした。庄屋の蔵で何か物音がします。庄屋と息子は起き出し、
音がする蔵へ近づいてみると、誰かが米を持ち出そうとしていました。

「この、盗人め」

2人が取り押さえると、それは、スズでした。
日が上った頃、スズは巡査に連れて行かれました。駐在所へ行く途中、スズは誰かに声をかけられました。

「スズちゃんの家の事は良く知っているよ。おなかが空いただろう、これでもお食べ」

 スズが顔を上げると、近所に住むお婆さんでした。とても、親切なお婆さんでしたが、身寄りが無く、
毎日、近くの寺にある仏様に手を合わせていました。スズは、お婆さんを見つめると、ゆっくりと頷き、おにぎりを受け取りました。

 2週間後、巡査の取り調べが終わり、スズは、やっと家に帰る事を許されました。

「食べ物がわずかしか残っていなかった、どうかおとうが、生きています様に…」

 家に帰ると、父は痩せていましたが、何とか生きていました。スズは泣きながら、

「おとう、1人にしてごめんね」
「ワシのために、盗みを働いたんだね。すまなかった」

 父は、スズを抱きしめました。その時、スズは、ハッと気がつきました。

「近所のお婆さんに、おにぎりをもらったんだ。お婆さんにお礼を言ってくる」

 スズはお婆さんの家に行きましたが、お婆さんは、なかなか家から出てきませんでした。
何があったのだろう? 近くの人に話を聞いたところ、お婆さんは数日前に亡くなったとの事でした。
お婆さんは、身寄りも食べ物も無く、お寺の前で倒れていたそうです。どうも、スズに渡した、おにぎりが最後の米だったようです。


 数日後、父とスズは、お婆さんの墓参りに出かけました。スズは手を合わせると、

「村の人達は自分に冷たかったけど、お婆さんだけは違った。ありがとう。お婆さんに仏様の救いがありますように…」

 その時、墓の前で

「生きるということは、他の命を犠牲にしているという事なんだよ。
 自暴自棄にならず生かされている事に感謝して生きていくんだよ」

 お婆さんの声が聞こえました。その後、2人はお婆さんの墓の前に、感謝のおにぎりを供えました。
墓の近くでは梅の花が咲き、良い香りがしていました。




▲▲▲▲ 2015年4月16日 完結 ▲▲▲▲