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作品名:黒魔術師 アルバートの純愛
原 作:清原 登志雄
校 正:橘 かおる/橘 はやと
イラスト:姫嶋 さくら
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 昔々のヨーロッパ。5年前、この国では隣国と領土紛争があり、多くの人々が奴隷として捕まったり殺されたりしました。
17歳の少年、アルバートは、隣国との戦争で何もかも失いました。戦時中、アルバートは戦争に必要なエネルギー確保のため、
石炭の精錬工場で働いていました。そこに敵国が侵入。戦争で故郷を襲撃されたアルバートは仕事仲間と逃げだします。
石炭の精錬工場は破壊され、故郷は焼き払われてしまいました。
アルバートは自分の持っていた大切なものをすべて戦争で失い、隣国の人々を恨んで育ちました。

『自分の不幸な境遇を隣国の人間にも分からせたい』

いつも心の底で黒い炎をともしていました。
アルバートは隣国に復習をしたいという思いから、心がいつも暗く、友人も出来ませんでした。
日銭を稼ぎ毎晩1人、酒屋で酒を飲む日々を送っていました。そんなアルバートを見た酒屋の女将さんが、

「若いのに、毎日そんなに酒ばかり飲んでいないで…何か悩みがあるのなら、
 西の森に魔女が住んでいるみたいだから、行って話を聞いてもらったら?」

 それを聞いたアルバートは酒を減らし、魔女に見てもらうお金を貯めて、西の森へと向かいました。
アルバートは魔女の家を訪ねます。アルバートが魔女の家に入って行くと、おばあさんが黒い水晶玉を見て何かつぶやいていました。
おばあさんは顔を上げると、

「おや、若者が来る気配がしたけど、どうやらあんたみたいだね。
 若いのにここに来るとは、どうしたんだい? 何か深い悩みでもあるのかい?」

アルバートは5年前の戦争で何もかも失い、隣国に復習がしたいと魔女に話しました。魔女は笑って、

「よし、アルバート。黒魔術の使い方を教えよう。
 だけど、アルバートが本当に欲しいのが黒魔術かどうか、分からないがね、ふふふ」

 アルバートは数ヶ月、魔女の家に通い黒魔術を学びました。それは他人に厄災をもたらす危険な黒魔術でした。
アルバートが黒魔術を覚え、隣国への復讐に燃えている様子を見た魔女は、

「アルバートとやら、黒魔術の使いすぎには気をつけなされ。黒魔術を使いすぎると、
 体力も精神力も奪われ、疲れ果ててしまうから、ほどほどにな」


 魔女と別れた後、アルバートは黒魔術を使い続けて隣国に災いをもたらすようになりました。
そして隣国で良くないウワサを聞くと少しうれしくなりました。
しかし、黒魔術を使いすぎて日に日に体が弱っていきます。アルバートは毎晩のように酒を飲み、

「戦争で両親も故郷も失った。もう自分なんか死んでも、誰も悲しむ人はいないだろう」

そう考え、日銭を稼いでは、黒魔術を使い隣国に災いをもたらしていました。


ある日、黒魔術の使いすぎでフラフラになって歩いていたアルバートは夜道でバタッと倒れてしまいました。
その時、

「あ、あの、大丈夫ですか?」

後ろで少女の声が聞こえましたがアルバートはそのまま気を失ってしまいました。
アルバートは気がつくとベッドの上で横になっていました。
栗色の髪の少女がアルバートを見つめています。アルバートはあたりを見渡し

「ここは何処?」

少女はアルバートが気がついたので、ほっとした様子で、

「ここは私の部屋ですよ。貴族様のお屋敷の一室を借りているのです。気がついて、本当に良かったです」

その少女はソフィーアといいました。ソフィーアは隣国の娘で5年前の戦争で両親を失い、奴隷として捕まり、
自国の貴族から働かされていました。

 その後、アルバートとソフィーアは何度も会い、仲良くなりました。
ある日の事、アルバートの夢の中で黒魔術を教えていた魔女が出てきてこう話ました。

「アルバート、私の家においで。少し話があるから」

 アルバートは不思議に思いながらも魔女の家を訪ねます。
魔女はアルバートを見ると、

「ふふふ、女の子が出来たようだね。あの子はいい子だよ。自分の不幸な境遇にもめげずに頑張る姿が見える」

アルバートは口ごもって

「そうなんです。自分は黒魔術を使って災いをもたらしてばかりなのに…」

 魔女はアルバートの顔を覗き込み、

「アルバート、聞いていいかい? お前さんは隣国の人間が嫌いだろう。
 それならその少女に何故、災いをもたらさないのかい?」

 アルバートは黙ってしまいました。その様子を見た魔女は、

「お前さんが本当に憎いのは隣国の人間じゃなくて、戦争だろう。
 それなら黒魔術は使わなくてもいいのではないかい? 本当に黒魔術は必要かい?」


アルバートは何も言えず黙ったままでした。


数日後、アルバートとソフィーアは夜の公園で会いました。星空を眺めながらアルバートが

「ソフィーアはいつも元気だね。苦しい境遇なのにどうして?」

ソフィーアは星を見つめながら、

「辛い境遇も神様が定めた運命と考え、朗らかに生きてみようと思ったの。
 そうしたら少し気持ちが軽くなった」


 アルバートは何度もソフィーアと話をする内に、自分の命を削って、
隣国に災いをもたらす黒魔術使いの生き方に疑問を感じるようになりました。アルバートは夜、部屋で蝋燭の火をみつめて、

「確かに戦争で自分の全てを奪ってしまった奴らが憎い。
 でも黒魔術で復讐するのは本当に正しい行いなのだろうか?」

 ある日、アルバートが部屋で黒魔術を使っていると、突然、カランカラーンと扉が開きソフィーアが入って来ました。
ソフィーアは部屋の様子を見て驚き、

「アルバート君、一体何をしているの? こんな薄暗い部屋で…」

 そう言われ、問い詰められたアルバートは、自分は黒魔術使いで、隣国の人々に災いをもたらすべく魔術を使っていたと話しました。
するとソフィーアは悲しそうに、

「そう、アルバート君は隣国の人間が憎いのね。でも人に災いをもたらす前にもう少し考えて欲しいの」

 ソフィーアはアルバートを見つめて、

「私も隣国の人間の1人です。そして、多くの人々を知っているけど、悪い人ばかりじゃないわ。
 多くの人は戦争を嫌がっているのよ」

 アルバートは俯きました、

「アルバート君、そんな事をしていても悲しみしか残らないよ。
 せっかく戦争を生き延びたんだから、亡くなった両親の分まで幸せにならないと」

 そう言うとソフィーアはアルバートの部屋から出て行きました。

アルバートは一晩中、ソフィーアの言葉が忘れられないまま朝を迎えました。そして今後どうやって生きるべきかを考えました。
ソフィーアがアルバートの家にやってきました。ソフィーアはアルバートの部屋に入ってくるなり、

「ねえ、アルバート君。これからどう生きたらいいのか、教会の司教様に相談したら?」

 アルバートはどうしようか悩みました。

「もし、黒魔術使いであることが、ばれたら僕は宗教裁判にかけられるかも知れない」

 しかしソフィーアは

「私も司祭様にお願いするから、相談してみましょう。罪を告白すれば神様はお許しになるって聞いたことがあるから」


ソフィーアはアルバートをその町の教会に連れて行きました。
その教会の司祭さんは立派な方でした。2人の話を聞いた司教さんは、

「災いをもたらすことは確かに神の意志に背きます。しかしアルバート。貴方に愛があれば神は全てを許すでしょう。
 隣国の人間の良いところが一つでもあれば、それを認めなさい。貴方は変わっていくでしょう」

 その言葉を聞いたアルバートはソフィーアに、

「神に許されたような気がする」

 そう告白し、懺悔しました。


それから5年後、アルバートとソフィーアは結婚し、新しい命が生まれ、笑顔のアルバートが教会の前で赤ん坊を抱きしめていました。
その様子を亡くなった両親がそばで見つめているような気がしました。アルバートとソフィーアの子供にはアルバートの両親の名前をつけました。
教会の祝福の鐘が町にいつまでも鳴り響いていました。



▲▲▲▲ 2015年7月25日 完結 ▲▲▲▲