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作品名:幸せを呼ぶ魔法のノート(前編)
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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【第1部 天使のノート】

 男の子が公園のブランコに座り足元で寄り添うように咲く2本の花を寂しそうに見つめていました。

「クラスのお友達はみんなパパがいるのに僕にはいない」

ため息をつきながらブランコから立ち上がると俯いて歩き出しました。
友達の家の前を通ると楽しそうな声が聞こえてきます。

「父さん今度、ゲームを買って」
「よーし、テストで良い点を取ったら買ってやるぞ。夏休みは遊園地に行くぞ」
「えー嬉しいな。ありがとう、お父さん」

楽しい会話が聞こえてきます。しばらく立ち止まって聞いていましたが急に家に向かって走り出しました。
家に着くと玄関を開けます。

「ただいま」

ため息をつきながら、2階に上がります。部屋に入り、しばらく考え込んでいましたが1階に下りると台所へ向かいました。
台所では、ママが夕食の支度をしています。ママの後姿をジッと見つめていましたが

「ママ…あのね」

思い切ってママに声をかけました。

「なあに、優矢?」

ママは笑いながら振り返りました。

「あのね…ゲーム機を買って欲しいの」

ママは黙っていましたが、やがて悲しそうな顔をして言いました。

「ダメよ優矢。今年の冬までは我慢しなさい。パパが居なくなってから、うちも大変なの。分るでしょ?」

優矢はママの顔をジッと見つめていましたが頷くと2階にある自分の部屋に上がって行きました。
優矢は黙って座り込んでいましたがふと思い出したように顔を上げ本棚に手を伸ばしました。
優矢が手にしたのは(シンデレラ)の本でした。まじまじと表紙を見つめながら

「パパが居たころは毎日のように本を読んでくれた。パパは遊園地やプールにも連れて行ってくれた」

そうつぶやくと、絵本のページをめくりました。
ページにはシンデレラがカボチャの馬車に乗りお城に向かうイラストが描かれていました。

「僕にも魔法が使えたらいいのに」

机の引き出しを開けると中には沢山の鶴と小さな折り紙が入っています。色とりどりの折り紙を取り出し、
ボンヤリ見つめていましたがやがて鶴を折り始めました。

「1年前からパパが出て行ったきり帰ってこない。パパが1日も早く帰って来ますように」

独りつぶやきながら優矢は一生懸命、千羽鶴を折り続けました。
 その日の夜。優矢は気が付くと白い花が咲き乱れている花畑に立っていました。目の前には、
きれいな小川が流れ小鳥がチイチイ鳴いています。ガラーンゴローン。小川の向こうには大きな白い教会が見え
美しい音色で鐘が鳴り続けています。その教会の前では白銀の鎧に赤いマントをつけたナイトと金色の髪をなびかせ背中には
白い翼をつけた不思議な女性が2人でこちらを見つめています。優矢はしばらくの間、
2人を見つめていましたが白い鎧のナイトの顔に何故か懐かしさを感じました。

「誰だろう?」

小川を渡ろうとした時、急に意識が遠のいていきました。
 ハッ。気が付くと優矢はベッドの中でした。

「夢…だったのか」

ベッドから起き上がると思い直したように優矢は下へ降りて行き日課となっている新聞を郵便受けから取り出しました。

「うん?何だろう?」

新聞と他に白い封筒が入っていました。不思議に思い差出人を見ると、そこにはパパの名前が書いてあります。

「え?パパから?鶴を折っていたら本当にパパから郵便がきた。ヤッター」

思いがけない嬉しさに封筒を見ながら、台所にいるママへ声をかけました。

「ねえ。ママ!パパから郵便が来たよ」
「え?あ…あらそう。それで中身は何?」
「うん…。今から開けてみるね」

 早速、封筒を切ってみると中には天使のイラストが描かれたノートと1枚の白い鳥の羽が入っていました。

「おお…天使のノートだ」

優矢はノートをゆっくりと見てみたくなり2階に上がって行きました。
ママは呆然としていましたが、もう1度白い封筒の宛先を見ました。

「確かにパパの字だわ。パパが死んでから1年以上経つのに郵便が届くなんて…。一体誰がくれたんだろう…」

ママは何時までも封筒を見つめていました。


【第2部 ノートから物が飛び出す】

優矢は部屋に入ると嬉しそうにノートを眺めていました。表紙をめくると表紙の裏には虹色のペンで何か書かれています。
(悲しみと希望の世界にいる優矢へ。お前は寂しがりだから独りぼっちでいるのが辛いだろう。
だけど、それは優しさを得るための宿題だから、しっかりと前を向いて歩くように。
ところでお前の悲しみを少しでも、やわらげようと天使が魔法のノートをくれた。
このノートに願い事を書き込むと1日だけ望みが叶うから、大切にするように)
優矢は唸りながら

「でも本当かな…。とりあえず何か書いてみよう」

鉛筆を取り
(お菓子が、いっぱい食べたい)

とノートに書き込みました。部屋の外ではママがこっそりと部屋の中を見ていましたが

「まるで天国から届いたかのようなノートねでも、一体だれが?」

不思議そうにつぶやきました。

 翌朝、優矢が目覚めると机の上にはチョコレートやポテトチップス、ガム、ポップコーン、ケーキなどがあふれんばかりに並んでいました。

「わっ…なんだこれ」

優矢は驚いてベッドから飛びおり沢山並んでいる、お菓子の前で目をパチクリさせていましたが

「これ、ぜーんぶ本物かなあ?」

早速ケーキを手に取り口の中に入れます。モグモグ…。口の中にケーキの甘い味が広がっていきます。

「わっ!本物だぞ」

優矢はお菓子の山を眺めながら

『もっといろんなお菓子を食べたい』

そう思い次々とお菓子の袋を開けほおばりました。

「すごいな…本当に願い事がかなう魔法のノートだったんだ」

口からあふれそうなほどお菓子をほおばり天使のノートを見つめます。夢中になって食べているとお腹がいっぱいになっていました。
優矢は残ったお菓子を見つめていましたがケーキとチョコレートを持ち階段を下りていきました。
台所ではママがいつものように朝食の支度で忙しそうにしています。

「ママ、これ冷蔵庫に入れておいて」

振り向いたママは驚いた顔で

「どうしたの?そんなに沢山のケーキ」

「昨日、パパから郵便が届いていただろ。中に入っていたノートは凄いんだよ。あれは魔法のノートなんだ。
お菓子を一杯食べたいって書いたら、今朝机の上に沢山のケーキやお菓子が置いてあったの。食べきれないから冷蔵庫に入れておいて」

ママは呆気にとられてケーキを見つめています。優矢は不思議そうにしているママを見ながら言いました。

「どうしたの?ママ…」

そう言われて気がついたかのようにママは

「パパはね、本当は魔法使いなんだよ。きっと優矢が独りで寂しがっているから魔法のノートをくれたの。
だから大事に使わないとね。でもね、パパが魔法使いだということを学校のみんなに喋っちゃだめよ」

「うん…わかった」
「さてと…せっかくパパがくれたケーキだから冷蔵庫の中に入れておこうね。優矢が学校から帰ったら一緒に食べようか」

優矢とママの幸せな時が流れていきました。


【第3部 不思議なノート】

優矢が学校に行った後、ママは優矢の部屋を覗いてみました。

「まあ!こんなに散らかして」

ママは机の上や脇に散らかしっぱなしになっている、お菓子の袋やケーキの箱を片付けながら思いました。

『パパの知り合いの方でも届けてくれたのかしら?でも、こんなに沢山のお菓子を持って入ってこれないし…』

ママはベッドの脇に置いてあった天使のノートを恐る恐るめくってみました。
表紙の裏には虹色のペンで書かれたメッセージがあり、次のページには優矢が書いたと思われる願い事が書かれていました。

「不思議ね。本当にこんな事ってあるのかしら?」

ママはいつまでも不思議なノートを見つめていました。

「ただいまー」

優矢は元気よく帰って来ました。

『今日も何か願い事を書くぞ』

2階に上がりランドセルを置くと箱に入った沢山のお菓子を見ました。

「これだけ沢山あったら1カ月は食べられそうだ」

嬉しそうな顔で階段を下り台所に入ると

「優矢、おかえりなさい」

ママは優矢を見てニッコリと笑いました。紅茶を入れ冷蔵庫からケーキを取り出しテーブルの上に並べます。
イチゴのショートケーキやチョコレートケーキ、台所は紅茶とケーキの甘い匂いで一杯になっています。

「優矢、朝からお菓子の食べすぎでお腹大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

優矢は不思議そうな顔で見つめるママを横目にケーキを口の中にポイっと入れました。
ママもその様子を見てケーキを食べ始めます。お腹一杯食べた後、2人は顔を合わせて

「ふー。美味しかったね。紅茶も美味しいし毎日食べたいね」

優矢は紅茶の湯気を見ながら嬉しそうに言いました。

「ねえ、魔法のノートをくれたパパはきっと凄い魔法使いなんだね」
「そうね。パパはすごい魔法使いだから、きっと優矢に希望を持たせてくれるのよ」

ママはしばらく目を下に向けて何か考え込んでいるようでしたが、気がついたように顔をあげて

「今日は魔法のノートに何を書くの?」

優矢は

「うーん」

と考え込んでいましたが

「ゲームかクワガタが欲しいって書こうかな」
「クワガタは生き物だからね。ちゃんと世話をしなきゃいけないから大変よ」
「そうか…。じゃあゲームにしよう」

優矢はそう言うと、台所を出て行きました。
次の日の朝。優矢が目を覚ますと机の上にはカードとゲーム機が並んでいました。それを見て優矢は

「やった!パパが魔法でゲームを届けてくれたんだ」

そう言うと嬉しそうに階段を下りて行きました。

「ママ、お早う」

元気よく挨拶するとママは困ったような顔をして

「ねえ、優矢。昨日のケーキ食べた?」
「え?知らないよ」
「変ねえ。冷蔵庫の中のケーキがなくなっているの」

それを聞いた優矢もハッとして

「そういえば、僕の机の上にあったお菓子がなくなっていた」

2人はしばらく顔を見合わせ黙っていましたがやがて優矢が言いました。

「きっと魔法の効果が切れちゃったんだよ。それで消えてしまったんだ」
「物が突然出てきたり、消えたりするって本当にあるのかしら?」

とママも不思議がっています。しばらく悩んでいましたが、優矢は部屋からノートを持って来ました。

「ほらママ。ここに(魔法は1日だけのぞみがかなう)って書いてあるだろ」

「本当ね。やっぱり魔法がきれると消えちゃうのね」

2人は不思議そうにノートを見つめていました。



(後編に続く)
▲▲▲▲ 2014年2月5日 ▲▲▲▲