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作品名:幸せを呼ぶ魔法のノート(前編)
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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【第4部 父との再会】

その日の夕方、晩御飯を終えた2人は魔法のノートについて話をしていました。

「ねえ優矢。ママにも願い事を書かせてもらえない?」
「うん…いいよ」

ママは(食後の食器を奇麗に洗ってほしい)と書きこみました。
 次の日の朝―。台所の食器棚を見ると奇麗に洗われた皿がきちんと並んでいます。

「本当だわ。1日だけ願い事が叶うノートなのね」

嬉しくなり思わず笑っていると

「ママ…おはよう」

元気のない声で優矢が台所に入って来ました。

「あら、優矢どうしたの?そんな暗い顔して?」
「うん、昨日もらったゲーム機ね。朝起きると無くなっていた」

そう言われてママはハッとしました。

「そうよね…。これは魔法なんだ。1日経てば全てが消えてしまうんだわ」

そう言って深いため息をつきました。ママは虚ろな目でノートを見つめていましたが

「よし!1日限りだけど(部屋がきれいになりますように)って書いてみよう」

ママはペンを走らせます。優矢は1日だけのゲーム機にがっかりしていました。
 その日の夜の事。ガタゴト、ガタゴト。ママが眠っていると隣の部屋で不思議な音がします。
しばらく聞き耳をたてていましたがゴトゴトと音が響いてきます。ママは起き上がりそっと隣の部屋を覗いてみました。

「あっ」

ママは思わず驚きの声を上げました。そして、次の瞬間部屋の様子から目が離せなくなりました。
死んだはずのパパが部屋に立っていたのです。

「あ…貴方」

思わず叫ぶとパパは顔を上げママを見ました。
しばらく目を合わせましたが、パパはやがて部屋に溶け込むように消えてしまいました。

『死んだはずのパパが見えた』

ママは奇麗に片付けられた部屋に入り呆然と立ち尽くしていました。
いつの間にか気がつくと辺りは明るくなっていました。窓の外から朝日が差してきます。

「………」

ママはため息をついてフラフラと台所に入りました。
昨日、きれいに洗われたはずの皿が汚れたままキッチンに置かれています。朝日の差す窓を見つめながら

「貴方…どうして死んだの。優矢にパパが死んだなんて、どうやって伝えればいいの」

深く溜息をつくと汚れた皿を洗い始めました。
 その頃、優矢は部屋で

『パパが早く帰って来るように』

と祈りながら鶴を折っていました。

「あと50で千羽になる。魔法使いのパパが早く帰ってくるといいな」

独り言を言いながら、せっせと鶴を折り続けました。

「よし!千羽折ったらパパが帰ってくるようにノートに書いてみよう」

優矢はノートを眺めてニンマリと笑いました。
 美しい星がキラキラと輝く夜。優矢はようやく千羽の鶴を折り終えました。
そして早速、魔法のノートを取り出し(大好きなパパが帰ってきますように)と書き込みました。

 


【第5部 二人の決断】

優矢が部屋の明かり消してベッドの中に入りウトウトしていた時です。青白い光が差してきて部屋をほんのり照らしました。
優矢が驚いて起き上がるとトントンと後ろから肩をたたかれました。思わずドキッとして恐る恐る振り返ると、
そこには白銀に輝く鎧をつけたナイトが立っていました。

『夢に出てきたナイトだ』

薄明かりの中、優矢が目を凝らしてナイトの顔を見ると、なんとパパにそっくりです。優矢はナイトをしばらく見つめていましたが

「パパなの?パパだよね。本当に帰って来てくれたんだね」

そう言ってナイトの白い腕を握りました。ナイトはジーと優矢を見つめていましたが

「パパはね死んじゃったけど、お前たちを守るために天使様にお願いして聖なるナイトとして生き返らせてもらったんだよ」

そう言って優矢の頭を優しくなでました。優矢はため息をついてパパを見つめながら

「やっぱりパパはもう死んじゃったのか。パパと一緒に暮らせたら楽しいのにと思ったけど…もう魔法でもかなわないんだね」

そう言って鼻をすすりました。パパは優矢の目を見つめながら

「良いお父さんは世の中に沢山いる。その人たちがパパの代わりになってくれるから」

優矢はナイトをジーと見つめていましたが、ふと気がついたかのように机の中から鶴のつまった箱を取り出しました。

「パパ…これ。学校の先生が鶴を千羽折ったら願い事が叶うって教えてくれの。これ、パパにあげるね」

「本当にいい子だ。パパは1日も早くお前の元に帰りたいよ」

そう言って優しく頬をなでて鶴を受け取りました。

「いいか優矢。パパとお前は心がつながっている。だから必ずお前の元に帰ってくる。
 それまで優矢は男の子だからナイトになってママをしっかり守るんだぞ」

「わかった。もうママに我がままは言わない」

「よしいい子だ。しっかり前を向いて歩きなさい」

そう言うとパパは折鶴を手に光の中に消えていきました。

「死んだパパが白いナイトに見えた。きっとパパは星空から僕たちを守ってくれるナイトになったんだ」

優矢はまだパパが近くにいるようで窓から夜空を眺め続けていました。

 チュンチュン―。外ではスズメが騒がしく鳴いています。夜空を眺めているうちにいつの間にか朝になっていました。
優矢は天使のノートを見つめて

『パパが住んでいる世界ってどんな世界なんだろう』

空想が次から次に浮かんでは消えていきました。優矢はボンヤリとしながらノートを手に取り1階へ降りて行きました。
台所に入るとママは朝ご飯の仕度をしています。優矢が朝早く台所に入ってきたので、驚いて言いました。

「優矢どうしたの…。こんなに朝早く」

優矢はママの顔を見ながら

「ママ…パパは死んじゃったんだね」

ママは一瞬驚いたような顔をした後ゆっくりと下を向いて黙っています。

「パパはもう幸せを呼ぶ魔法ですら帰ってこられないんだね」

ママは目を潤ませながら頷きました。

「天使のノートにパパに会いたいって書いたらパパはナイトになって僕のベッドの横に立っていたの。
パパは天国で天使様にナイトにしてもらったんだって。お前もママを守れるぐらい強くなりなさいって言ってくれた」

ママは頷きながら

「パパはね、重い病気になってね、優矢の知らない遠いところで亡くなってしまったの。
 パパはいつも強くなりたいって言っていたわ」

優矢は思い切ったように

「ね…ママ。このノートにパパと一緒に暮らしたいって書きたいんだけど」

ママは優矢が幼い頃からパパが大好きでパパが居なくなってからどんなに寂しい思いをしているのか良く知っていました。
優矢の強い決心を感じ取ったのかママは

「そうか…。優矢がそう言うならママも一緒に書くわ」

優矢とママはゆっくりと天使のノートにペンを走らせます。
(天使様、どうか優矢とママをパパと一緒に暮らせるようにして下さい)

2人は書き終えると、ゆっくりとノートを閉じました。

「明日は私達、天国にいるかもしれないね」

「もし天使に会えたら僕もナイトにしてもらうんだ」

優矢がそう言った時です。突然、目の前がかすみ、真っ暗になってしまいました。

 


【第6部 天使との約束】

気が付くと優矢とママは美しい花畑の中に立っていました。目の前には白い教会が建ち鐘が鳴っています。優矢は

「夢に出てきた教会だ」

そう呟きました。教会を見ると扉が開かれており赤いじゅうたんがしかれ奥には十字架が立っているのが見えました。
十字架の後ろにはステンドグラスが並び、そこから青白い光がさしていました。優矢とママは不思議な光景に見とれて教会の中へと入っていきます。
十字架の前まで来た時、風が吹き白い羽が舞うと、夢にでてきた金髪の白い羽をつけた女性とパパが現れました。
2人は茫然と白い羽が舞う教会の中で天使とパパを見つめていました。
透き通るような肌の白い羽をつけた天使は優矢をみつめ千羽鶴を差し出して言いました。

「これは優矢君が折った千羽鶴ですね」
「この鶴ね、パパに会いたくて折ったの」
「よく頑張りましたね」

天使はそう言って優矢の頭をさすりながら

「人はね悲しみを知っているから幸せになれるのですよ。
 パパを失った悲しみを知っているからこそ優矢は幸せになれるだろうし、みんなを幸せにしないとね。
 幸せはね深い悲しみを乗り越えた者のもとへやってくる天国からの贈り物だから」
「僕…本当に幸せになれるかな?」
「あなたの折った折鶴には優しさが込められています。
 優しさの魔法はね…すごく不思議なもので悲しみを癒すことの出来る誰でも使うことの出来る魔法です。
 そんなすばらしい魔法を使うことができる美しい心を持った自分を大切にしてくださいね」

パパは笑いながら

「優矢、ママ、天使様が話したように、この魔法は1日で消えてしまう事のない魔法だよ。
 お前達がみんなの心にともした優しさの明かりは輝き続ける限り消えることはないんだ」

優矢は不安な顔をしながら天使とパパを見つめていましたが

「もうパパと一緒に暮らせないの?」

思い切って聞くとパパは

「さっきね。千羽鶴を天使様に見せると、大切な約束してくださった」
「え?」
「お前が優しさというすばらしい魔法を使い続けるなら、パパをお前の元に返してやると」

教会の鐘の音が優矢を包み込むようにいつまでも響いていました。

チュンチュン―。気がつくとツバメのさえずりが聞こえ、朝日が差す台所で2人はしおれた花のように俯いていました。
2人は夢から覚めたように顔を上げます。優矢は窓から差す朝の光を見ながら言いました。

「現実の世界に帰って来たんだね」

 それから20年後―。大きく成長した優矢は再び白い教会の前で立っていました。
今度は優矢のママと優矢の奥さん、そして新しく生まれた男の子の赤ちゃんを抱えて笑っていました。優矢は赤ちゃんの手を握り

「パパ…おかえり」

そう言うと赤ちゃんは手を叩いて笑いました。
優矢は雲1つ無い吸い込まれそうな青い空を見上げながら

「天使様、幸せをありがとう」

そうつぶやいたとき

「思いは叶うでしょう。優しさの魔法を使う人々を神は裏切らないから」

空から天使の声が聞こえたような気がしました。空を見上げると、美しい青空には白い鳩が舞っていました。



(完結)
▲▲▲▲ 2014年2月9日 ▲▲▲▲