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作品名:
なかちゃんの声
シリーズ:高校生の為の紙芝居原作シリーズ
原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと / 橘 かおる
イラスト:姫嶋 さくら
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満開の桜を見つめる一人の男がいた。彼の名は賢治。
賢治は毎年、学校を卒業する季節が近づくと、同じ中学校に通っていた、なかちゃんを思い出す。
なかちゃんは、軽い知的障害があった。でも賢治にとっては大切な友人だった。

賢治が中学3年生の時の事でした。廊下を歩いていると同級生が後ろから、なかちゃんの背中を蹴り笑いながら言いました。

「なかの奴は、ノロマで、ばーか」

その様子を見ていた賢治は職員室に行き先生に言いました。

「先生、なかちゃんが、いじめを受けているようです」

先生がやってくると、いじめっ子の同級生達は逃げていきます。賢治は、その様子を見て、

『いじめなんかやって、何が楽しいのだろう。将来に何が残るのだろう』

と考えていました。賢治に助けてもらった、なかちゃんは近寄ってきました。

「賢治君ありがとう」
「いいよ、べつに気にしなくても」

賢治は笑って、なかちゃんを見つめていました。その様子を見ていた学校の先生は、

「賢治君と仲安君は家まで帰る道、確か同じだったよね」
「はい、一緒です」

先生はほっとしたように、賢治に

「賢治君、わるいけど、これから仲安君と一緒に帰ってくれない?」
「はい、わかりました」

その日から、賢治はなかちゃんと毎日、下校するようになりました。
賢治は、毎日のように、なかちゃんに一緒に帰ろうと声をかけました。
なかちゃんは賢治と下校するようになってから帰り道、学校生活について話をするようになりました。なかちゃんは、

「いつも上級生が、虐めてくる。馬鹿とかとか言う。学校に行くのがおもしろくない」

賢治はため息をつきながら

「いじめている奴達も、いつか後悔すると思う。
 いつまでも、そんな事を続けていたら、いつかは、自分にかえってくるからな」

 夕日の中、カラスがカーカーと鳴いていました。

 またたく間に月日が流れ、3月になりました。
賢治は中学校を卒業し高校へ進学、なかちゃんは在校生として残ります。
賢治は卒業式を終え、校庭で桜が散る中、なかちゃんと話をしました。卒業証書を手にした賢治を見て、なかちゃんは寂しそうに、

「けんちゃん、今までありがとう。又、いつか会おうね」

賢治は笑顔で

「なかちゃんも元気にしていろよ。また会おうな」

二人は寂しそうに別れました。

それから9年後、賢治は就職し社会人となりましたが仕事が上手くいかず
フラフラになって夜遅く社宅へ帰る日々がつづいていました。

「今日も仕事大変だったな。なかちゃんは元気にしているかな?
 こんな自分を見たら、なかちゃんは何て言うだろう。
 彼女もいないし、自分を必要としてくれる人なんてこの世にいるのかな?」

 その時、賢治の耳元で、なかちゃんの励ます声が聞こえました。

「けんちゃん、人生がうまくいかないからって慌てちゃだめだよ。
 僕は、けんちゃんに親切にしてもらって嬉しかった。けんちゃんのいいところは、優しいところさ」

 賢治はハッとして、部屋を、見渡しましたが誰もいません。


 その後、賢治は仕事を続けていましたが、過労で体を壊し、故郷に帰る事にしました。
賢治が帰郷して数週間後、偶然なかちゃんのお父さんに会いました。

「確か、君は賢治君。中学生時代は、息子が世話なった、ありがとう」

 賢治とお父さんはなつかしそうに話を交わします。お父さんは、

「仲安は虐められて学校に通うのが、辛いと話していた。賢治君がいてくれたから無事通学でき卒業出来た」

 それを聞いた賢治はうれしくなりお父さんに尋ねました。

「今、なかちゃんは?」

 お父さんは暗い顔をして、

「それがな、なかやすは数年前、事故で亡くなったんだ」

 賢治は思わず目を閉じました。そして卒業式の日、なかちゃんと交わした言葉を思い出しました。


 賢治はお父さんと一緒に、なかちゃんの墓にお参りしました。賢治は、なかちゃんの墓石の前で手を会わせます。
毎日、夕日に照らされながら一緒に下校した事を思いだしていると、

「あ、けんちゃん。また、会えたね。ずっと待っていたんだよ」

なかちゃんの声が聞こえたような気がしました。

「なかちゃん、約束通り、帰って来たよ」

風が吹き抜け、花々が頷くように揺れました。



▲▲▲▲ 2014年10月22日完結 ▲▲▲▲