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作品名:シャルロットと魔法の花(後編)
原 作:清原 登志雄
校 正:橘 かおる/橘 はやと
イラスト:姫嶋 さくら
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フェアリーを見たシャルロットは思わず、声をかけました。
「あ…貴方は、もしかしたら花のフェアリーさん…どうか逃げないで下さい。大切な話があるの」
声をかけると、驚いたように、その生き物はこちらを見ました、小人はゆっくりとフェアリーに近づき、
「こちらのお嬢様は、お兄さんの病気を治したくてこの森に咲く、魔法の花を探しに来たのです」
羽のついた生き物は2人をジロジロ見つめていましたが、
「わかったよ。確かに私は、この森に住むフェアリーです。今、座っていた花には幸せになる魔法がかかっています。
お嬢さん、その赤い花を咲かせてごらん。あなたのお兄さんを思う気持ちが本物ならね」
そう言われてシャルロットは、ゆっくりと、赤い花に手をふれました。でも花は中々咲いてくれません。
『どうしよう…花が咲かない。何かが足りないんだわ。お兄様に対する思いかしら』
シャルロットは幼い頃、アレクサンドルと楽しく遊んだ、日々を思い出しました。水遊び、広い庭で仲よく共に遊んだ事。
朝早く肩を並べて教会に出かけた日々。色んな思い出が次々と脳裏によみがえってきます。シャルロットは懐かしさから涙がこぼれてきました。
『お金より大切な魂の価値こそ人々が求めているものなのかもしれない。幸せは魂の持つ神聖な思いによって導かれているような気がする』
シャルロットの涙が花のつぼみにふれると、花はキラキラと光ってゆっくり咲きました。花が咲いた様子を見てフェアリーは、
「お嬢さんは、確かに素晴らしい心の持ち主みたいだね。いいよ…それだけお兄さんを思う気持ちがあるなら、その花をもっていくといいさ。
花が咲いたし、神様にあなたの魂が届いたみたいだから」
シャルロットは嬉しそうにフェアリーに頭を下げました。フェアリーは、
「本当にあんたはいい子だね。あんたの元で暮らせる家族や国民はきっと幸せになれると思うよ」
そう言うと、フェアリーは森の奥へと消えていきました。小人はシャルロットが笑顔で花をうれしそうにながめる様子を見て、
「さあ、お嬢様、このままだとすっかり日が暮れてしまいそうだ、早く帰りましょう。森の出口まで案内しますよ」
シャルロットは小人の案内で、森の出口に向かって歩き出しました。日がかげり、木々の陰が長く伸び、まるで悪魔が忍び寄るように見えました。
シャルロットは疲れ果て、ただ黙々と歩き続けました。日がすっかり落ちた頃、森の出口が見えてきました。
「やっと出口が見えた。足が痛いわ」
ホッとした時です。何かが茂みの中で動いたような気がしました。小人が茂みに近づいて様子を見ていると、
「ガオー」
クマが現れました。
「きゃークマだ。お兄様、助けて」
シャルロットと小人は、クマを見ながら後ずさりをします。クマは2人に少しずつ近づいて来ます。
シャルロットと小人は後ずさりをしましたが大木にドン。背中をぶつけてしまいました。シャルロットは花を抱きしめ、
『お兄様、魔法の花を渡せずごめんなさい』
そう思った時、クマはシャルロットの目の前で歩みを止めました。キラキラと輝く、不思議な花のにおいをかいでいます。
クマはしばらく魔法の花を見つめていましたが、魔法の花の力で心が落ち着いたのでしょうか。そのまま森の奥へ帰って行きました。
シャルロットと小人はため息をつき森の出口へと急ぎました。森の出口が見えてくると、小人は、やれやれといった様子で、
「お嬢様、今日は大冒険じゃったな。その花でお兄さんを励ましてやりなされ、相手を思いやる気持ちこそが大切な宝じゃからのう」
シャルロットは笑顔で、小人の手を握り、
「小人さんが助けてくれたお陰で、花を探す事ができました。本当にありがとうございます。あなたのことは忘れません」
小人に別れを告げ、シャルロットが宮殿に向かった頃、辺りはすっかり暗くなっていました。
夜になり、宮殿ではシャルロットがいなくなったと大騒ぎです。花を持ちフラフラになって帰って来たシャルロットを見た伯爵は、
どこへ行っていたのかを問いただしました。シャルロットは申し訳なさそうに、
「お兄様を元気づけたくて、森の中に咲く魔法の花を探していたのです」
そう言うとフェアリーの魔法のかかった花を見せました。伯爵はシャルロットと花を交互に見つめていましたが、やがてゆっくりと抱きしめ、
「よし、わかった。そこまでアレクサンドルを慕っているなら明日、会わせてやろう」
その夜、シャルロットは、疲れていましたが、うれしくて中々ねむれませんでした。
そして、あまり眠れないまま朝になると、花は少ししおれていました。シャルロットは、不安になりました。
『お兄様に渡すまでこの花は咲いているだろうか…』
その後、シャルロットとアレクサンドルは4年ぶりに再会しました。アレクサンドルに会ったシャルロットは魔法の花を渡しました。
アレクサンドルは笑顔で、
「4年間、お前の事を、ずっと心配していた。この花を探しに行ってくれたんだって。本当にありがとう、大切にするよ」
そう話したとき、不思議な事が起こりました。しおれかけていた魔法の花が元気に咲き始めたのです。
それはまるで、本当に魔法がかけられているように見えました。
それから月日が流れ、病から回復し伯爵の位についた、アレクサンドルはこの国の発展をゆるぎないものにし、
国民が幸せになれるようにと考えた政治を行いました。そして多くの民を困窮から救いました。
その政治の手腕はまるで魔法のようでした。アレクサンドルの活躍を見つめていたシャルロットは、
「お兄様は幸せを振りまく魔法使いのようだわ」
そうつぶやきました。
「愛の魔法は不滅で人々に伝わっていくものなんだよ。尊い財産はあなたの中に宿る神そのものです。
アレクサンドル様に主(あるじ)のご加護がありますように」
司祭さんの声が聞こえたような気がしました。アレクサンドルの民を思う気持ちが高貴な思いで咲く魔法の花にも伝わったかのようでした。
伯爵アレクサンドルの側にある鉢には魔法の花が元気に咲き続けていました。
▲▲▲▲ 2015年1月19日 完結 ▲▲▲▲