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作品名:シャルロットと魔法の花(前編)
原 作:清原 登志雄
校 正:橘 かおる/橘 はやと
イラスト:姫嶋 さくら
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 昔々、ヨーロッパの小国、クリスタルレイン公国。この国の地方を治める伯爵の元で双子の兄妹(けいまい)が生まれました。
兄の名は
アレクサンドル、妹はシャルロットといいました。2人は仲良く幸せに暮らしていました。6歳の誕生日を迎えたある日、

『今は仲の良い双子だが大人になったらもしかしたら、爵位や資産を巡って争う事になるかもしれない

父である伯爵はそう考えて、嫌がる2人を引き離し、別々に育てる事にしました。
好きな兄と引き離された、妹の
シャルロットは寂しさが募っていました。

『お兄様はどうしているのかしら? 元気かな』

そんな思いを馳せながら4年の月日がながれました。シャルロットが10歳になったとき、
兄のアレクサンドルの事がどうしても気になり専属のメイドに兄の近況を訪ねてみました。
メイドは暫らく黙っていましたが、やがて言いにくそうに、

「アレクサンドル様はシャルロット様に会えなくなってから、元気をなくし病気になってしまったようです」

それを聞いたシャルロットはショックのあまり部屋に閉じこもって考え込んでしまいました。

「お兄様に会いたい。また元気なお兄様に戻ってほしい。私に何か出来ることはないだろうか?」

俯き、部屋で独り言をつぶやいていると、コンコンとドアをノックする音がしました。
ドアが開きシャルロットのメイドが心配そうに部屋に入ってきました。

「シャルロット様、アレクサンドル様を心配するお気持ちは分かりますが、あまり心配なさらないほうがよろしいかと
 シャルロット様が明るく、朗らかに振る舞えば、アレクサンドル様の病状も回復が早いのではと思います。
 きっとシャルロット様の思いがアレクサンドル様にも届きますよ」

その時、シャルロットの心の中で幼い頃、司祭さんから聞いた、不思議な言い伝えを思い出しました。
それはアレクサンドルと一緒に町の大きな教会に出かけた時の事です。司祭さんが、

「人間の世界では身分が重要と思われていますが、神の前では愛と道徳心こそがもっとも大切なのです。
 愛と親切な心があれば人々は集まってきます。そして目には見えない、尊い財産を手に入れる事が出来るでしょう」

シャルロットはその話を聞き、司祭さんに訪ねました。

「司祭様、尊い財産ってなんでしょうか?」

司祭さんは笑顔で、

「我が国の森にはわが主(あるじ)、神様より使わされた、フェアリーが住んでいるとの話です。
 フェアリーが住む森には魔法のかかった不思議な花があると聞きます。愛を持ち人徳の高い方がその花を手にすると、
 わが主(あるじ)から本当に大切な財産を授かることができるという言い伝えがあります。
 大きな財産があり、人間世界では身分が高くても主(あるじ)の加護がないと寂しい人生を歩む方も多いのがこの世の事実です」

その言い伝えを思い出し、シャルロットはアレクサンドルの病いを少しでも癒そうと、
魔法の花を探すため、お母様に聞いてみました。お母様は笑って、

「ふふシャルロット、それはただの言い伝えよ。そんな魔法のような花があるのなら、
 この国の多くの人々は貧困から立ち直っているでしょう。その花があれば、きっと国民は豊かで幸せになっていますよ」

お母様に話をしても聞き入れてもらえないと感じたシャルロットは心の中で、

『1人で魔法の花を探そう』

と決めました。


ある日、シャルロットは魔法の花を探すため、1人で宮殿をこっそり抜け出し森に出かけました。
森の中は薄暗く、シャルロットは心細くなりましたが、アレクサンドルが元気になった姿を思い浮かべ、奥へと駈けだしていきました。
森の奥へ進む途中で古い苔むした丸太橋がありました。シャルロットが恐る恐る、丸太橋を渡り始めた時、ミシミシっとにぶい音がして、ボキン。
丸太が折れてシャルロットは谷に落ちてしました。数分後、
シャルロットは、ずぶ濡れになりながらようやく、岸に上がることが出来ました。
しかし、谷でコンパスを落としてしまいこの先、どう進んだらいいか分からなくなってしまいました。

『どうしよう道が分からない…お兄様、助けて』

心細くなり、メソメソ泣いていると、後ろから誰かが話しかけてきました。

「おやおや、こんなところでお嬢様が1人でどうしたのですか?」

シャルロットが振り向くとと、背丈が60センチぐらいでしょうか、小人のおじさんがこちらを見ています。
小人に驚きながらも
シャルロットは、

「フェアリーがかけた魔法の花を探しに森まで来たのですが、どこに咲いているのか分からないのです。
 それに森の出口も分からなくてしまって、困っています」

小人は心配そうに、

「フェアリーの魔法がかかった花ですか? きっと愛の心で咲く魔法の花を探しているのですね。
 見たところお嬢様なら、十分、裕福そうですが、どうして魔法の花を探しに来たのですか?」

シャルロットは寂しそうに地面を見つめて、

「お兄様が病気で困っているんです。お兄様を元気づける薬は、愛で咲く花だと思い、探しに来たのです」

清流がサラサラと流れる音を聞きながら小人はしばらく考え込んでいましたが、やがて、うなずき、

「お嬢様の思いはよく分かりました。だが、この森では時々、クマがでます。私が道案内しましょう。
 森の奥にフェアリーがいるときいた事があります。一緒に魔法の花をさがしてみましょう」

「ありがとう小人さん、本当に感謝します」

シャルロットは、ホッとしたように小人の手を取りました。小人は恥ずかしそうに笑うと、森の奥へ進んでいきました。
1時間ほど歩いたでしょうか、日がかげってきました。その時赤い花のつぼみの上で休んでいる
羽のついた髪の長い小さな生き物を見つけました。その生き物は光に包まれており、どこか神秘的でした。



▲▲▲▲ 2015年1月9日 次回に続く ▲▲▲▲