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 新約 竹取物語
 原作:竹取物語

 脚本:清原 登志雄
 校正:橘 はやと/橘 かおる
 イラスト:姫嶋さくら
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 昔々、竹を取って竹細工を作っては生活の糧を得ている老夫婦がいました。
2人には子供がいませんでした。老夫婦はよく、道端ですれ違う子供達を見て呟きました。

「ワシらにも子供がいてくれたら、どれほどこの世に張り合いがあるか」


老夫婦は信心深く、よく近くにある社で月夜見尊(ツクヨミノミコト)様に手を合わせて毎日のように祈っていました。

「神様、ワシらにも残りの人生が楽しく過ごせますように、お助け下さいませ」

静かな境内の中、その社はまるで2人を見つめているようでした。


ある日、老人が竹細工の材料を取るため、竹林に入って行くと、

「おぎゃあ、おぎゃあ」

と赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。不思議に思い、奥の方へ入っていくと生まれてまだまもない、
誰が捨てたのか分からない女の子の赤ん坊が置かれていました。竹取の老人は赤ん坊の手を握り、

「おお、可哀そうな子じゃ」

辺りを見渡しましたが、この子を置き去りにした親は見当たりません。
老人が、赤ん坊を見つめると、それは可愛くてまるで輝いているように見えました。

『もしかしたら、神様が子供のいないワシらを憐れんでおいて行ってくれたのかも知れない』

竹取の老人は、輝くように見える赤ん坊を育てる事に決めました。


女の子は美しく、かぐわしいため、“かぐや”と名付けられました。
女の子を育てるのは貧しい老夫婦にとって大変でした。しかしいざ育てると毎日が楽しく充実したため、
年月は矢の飛ぶがごとく流れていきました。そして、かぐやは成長するに従い人々に不思議な力をみせるようになりました。


かぐやが、病に苦しむ者の体に触れると、病が癒え笑顔が戻りました。
 かぐやが、夫婦仲が悪く、どうしてよいか相談を持ちかけられると、空を見上げて

「幸せになりたければ、夫婦お互いの気持ちをいたわり合いなさい。そして毎日笑顔で過ごしなさい」

と語り、その後、夫婦の喧嘩は減り家庭は落ち着いていきました。
かぐやが、この村を治める里長から

「この村は貧しくて、税が取れず困っている」

と相談されると

「税が十分取れないのは貴方の治める力にも問題があります。まずは税より民の幸せを考えましょう」

と答え、善良な統治が行われるなど、かぐやの利発さ、そして体を癒す不思議な力は多くの人々の関心の的となりました。


 人々の相談を明快に答え、体を癒す不思議な力をもった、かぐやの元にはお礼として、
作物や絹の織物など多くの感謝の品々が届けられ、竹取の老夫婦は大きな財を持つようになっていきました。


この利発なかぐやの噂を聞き多くの貴族の息子達がかぐやに求婚を申し出ました。
しかし、かぐやは悲しそうに求婚を断っていました。

「私には大切な、おじい様、おばあ様がいます。ほおっておくわけにはまいりません」


中々、お嫁に行かない、かぐや。心配した竹取のおばあさんが、かぐやに話しました。

「お前もそろそろ、年頃の娘だ。お嫁に行かなければワシたちは心配じゃ」

すると、かぐやは、空に浮かぶ月を眺めて、

「実は…私は、あの月より遣わされた者なのです。あの月には本当の私の両親がいます」

おばあさんは驚き、

「なに…月の子供じゃと?」

「はい。そうでございます。次の満月の日には、あの月から使者が迎えが来るはずです」

そう言って、かぐやはため息をつき

「いままで育てて下さってありがとうございました。お礼として毎日、月の力を込めた霊水をこの瓶に詰めておきました。
おじい様、おばあ様にこの霊水をお渡しします。この霊水を飲めば健康で長生きが出来るでしょう。どうか長生きで幸せに…」


“かぐやが月に帰る”という話は瞬く間にうわさになりました。そして、
かぐやを月に返すまいと満月の夜、護衛をつける事が決まりました。


 老夫婦は、かぐやが月に帰る事を知り、深い悲しみにおおわれていました。
そして村はずれにある社に行き、
かぐやが少しでもこちらに長くいられるよう、
月夜見尊(ツクヨミノミコト)様に手を合わせていました。


ある日の事、竹取の老夫婦が眠っていると不思議な光を感じました。
その光の中には何かが宿っているようでした。その光は、

「かぐやを失う悲しい気持ちは分かる。だがお前達、老夫婦は、かぐやからもらった霊水で長寿を全うすれば、
さらに幸せになれるだろう。かぐやはお前達夫婦が幸せな人生を長くおくってくれることを望んでいる。何も心配はいらない」

そう話すと光は消えてしまいました。


数日後、都から、弓と矢をもった、もののふ達が老夫婦の家の護衛につきました。その様子を見た、かぐやは、

「残念ながら、私が月に帰るのは天が定めたものであり、どうする事もできません」

そう話し、涙を流していました。


 満月の夜になりました。かぐやは月の使者に連れていかれないよう家の奥に、閉じこもるように言われました。
外ではもののふ達が、かがり火を焚いて家を取り囲んでいます。そして日付が変わろうとした時でした。


 月から大きな光が降りて来たのを見て、もののふ達は、かぐやを月へ連れに来たと思い、
光をめがけて矢を射りましたが、光に当たりません。月から降りてきた大きな光はしばらく竹取の老夫婦の家を見つめるように
飛び回っていましたが、そのうち夜が明けると、月へと帰って行きました。


それを見て、月の使者が月へ帰ったと思ったもののふ達は、老夫婦に

「月の使いを追い返した。かぐやは無事か?」

とたずねたので、老夫婦はかぐやの部屋をのぞいてみました。


 その部屋で、かぐやは眠っていました。老夫婦ともののふ達が、かぐやに近づくと、かぐやの息が途絶えており、
すでにこの世の者ではありませんでした。かぐやは満月の夜、月へと旅立ってしまったのです。
外では、かがり火の燃えカスがくすぶり、白い煙が空へと昇っていました。


 老夫婦は悲しみのため、かぐやからもらった霊水を飲むことすらできませんでした。
その為、老夫婦は富士の山で、【飲めば長生きをする】とかぐやからもらった霊水を火口に投げ入れました。
老夫婦は燃える霊水を見て、

「かぐやよ。何も心配する事はない。わしらも年じゃ。死んだら月へ迎えにいくぞ」

と呟いたといわれています。


 大変昔の話であり、これ以降、この逸話に関する記録は残っていません。
やがて残された者達は、老夫婦とかぐやが再び月でめぐり会えることを祈ったと云う事です。



▲▲▲▲2014年12月8日 完結▲▲▲▲