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翼のない天使 第7章
ルーセントシリーズ
企画・原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
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ここはルーセント連邦、ルベール市の音楽劇でクラーラ・ジュピリは演奏会の後片付けをしていました。
今夜はここで、ルベール市を代表する音楽家、ソプラノ・アルト・ベースの演奏会があったのです。
せっせと後片付けをしながら、楽器の手入れをしているクラーラを見ていたベースは、
「クラーラさん、いつもイベントの準備や後片付けありがとうございます。早く娘さんに会えるといいですね」
「ありがとう、ベースさん。あの子は今どうしているのかしら? あの子ももうすぐ9歳になります。
お金をためて早く一緒に暮らしたいんだけど」
ベースは笑顔で、自分のオカリナを袋にしまいながら。
「私たちも音楽隊を結成した当初は大変だったんですよ。子供の頃、父、エルスナーを結核で失ってしまって…
でも色んな人々に支援されてやっとここまで成長したんです。多くの人々に笑顔を届けたい…
そんな気持ちがあればきっと、皆さんから支援を受けて娘さんと一緒に暮らすことができるようになると思います。
僕たちもそうでした。クラーラさん…娘さんに会うまでは、決して体を壊さないように気を付けてくださいね」
会場の後片付けが終わるとイベント設営のチーフが言いました。
「よし、後片付けは終わり。今日はここまで…」
「お疲れ様でした」
スタッフは次々と劇場を後にしました。クラーラも薄暗くなった会場を後に帰宅を急ぎました。
会場の外に出ると秋も深まり、息が少し白くなっています。空を見上げると、月が出ていました。
クラーラは1歳の時、別れたまま、一度も会っていないヴァイオラを思い出していました。
「ヴァイオラ、一人で寂しがっていないかな…私は本当に何もできない情けないお母さんでごめんね…」
歩きながらため息をつき、
「エミリアーノ公国との戦争さえなければ、今頃はお父さんと一緒に3人で楽しい生活ができていただろうに」
子供連れの猫が通りを、すれ違って行きます。子供を気遣って仲良く歩いていく2匹の猫を見ながら、
「ああ…ヴァイオラがそばにいてくれたら、どれだけ人生に張り合いがあっただろう。早く会いたい…。
でもヴァイオラは、こんな私を母だと思ってくれるだろうか…」
月は、静かにクラーラを見つめているようでした。人通りがほとんどない、通りの中を歩いていると、
今まで見たこともない美しい青年が周りを見渡しています。
クラーラは銀髪の青年の美しさに見とれて思わず足を止めてしまいました…。
その青年はクラーラに気が付くと、
「あ…す、すみません…通りでウロウロして…邪魔をしてしまいました」
クラーラは青年の美しさに驚きながら、
「い、いえ…私のほうこそ考え事をしていてすみませんでした」
青年はクラーラに訪ねました。
「あの…人を探しているのですが…」
「どなたでしょうか?」
「この辺りでラミエールという女性を知りませんか? おそらく占い師のような事をやっていると思うのですが…」
「ラミエールさん? 聞いたことないわね。どんな方ですか? 何か特徴はありませんか?」
「私の大切な人なんです。不思議な力をもっているので…
この地方にお住まいの方なら知っているかも知れないかと思って訪ねてみたのですが」
「うーん。不思議な力を持つ占い師さん? ラミエールさん…よくわからないわね」
「そうですか。ありがとうございます」
青年は頭を下げると通り過ぎて行きました。クラーラは、闇に消えていく青年の後ろ姿を見つめていました。
メビウスの森の中。ラミエールは空を見上げて月が出ているのを確かめると窓を開け月が映るように鏡を窓際に置きました。
「敬愛なるお姉様、どうか降りてきてください」
鏡が反射すると鏡に月の女神がボンヤリと浮かんできました。女神は、
「ラミエールよ、どうしたのですか? 今日も一人ですか?」
ラミエールは思いつめた顔で
「お姉様、今日は相談があります。この森の出口に大きな大農家があり、そこに預けられている8歳の女の子がいます。
継母と継父に育てられていますが扱いがひどくて。ヴァイオラという女の子です。
本当のお母さんを探していますがなかなか見つからなくて困っています」
「ふむヴァイオラという女の子ですか…」
「そうです、ヴァイオラ・ジュピリと言います。1歳の時、実母と別れて今の両親と暮らしています…
半分エミリアーノ人のようでルーセント連邦では貧しい上、不安定な生活を強いられているようです」
月の女神、ディアーナはため息をつくと
「どの国の生まれであったとしても、大切なのは魂のあり方です。
人間の価値は人種やお金だけでは決まりません。いかに人々に受け入れられるかです」
そう話すとディアーナは足元の黒い猫を抱き上げました。ディアーナは猫を抱えて撫でながら、
「ヴァイオラのお母さんの手がかりはあるのですか? ラミエール…」
「この国のどこかで生活しているらしいのですが…。精霊さん達の話によるとたぶんルベール市だと思います。
名前はクラーラ・ジュピリといいます」
ディアーナは、何か気がついたように
「クラーラさんですね? おそらく若いお母さんです。ルベール市で、有名な音楽家の演奏会の設営作業をやっているようです。
夜、暗くなった道を一人歩いていましたよ」
風が舞い白いカーテンが揺れました。
▲▲▲▲ 2014年6月30日 次回に続く ▲▲▲▲