▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
翼のない天使 第8章
ルーセントシリーズ
企画・原作:清原 登志雄
校正:橘 はやと/橘 かおる
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
ラミエールは嬉しそうに、
「お姉さま、ヴァイオラちゃんが幸せになるには、やはりお母さんと一緒に暮らす事が一番良いと思うのですが…
お母さんはルベール市に住んでいるのですか」
「そのようですね。大事な娘さんと離れ離れで御気の毒に。夜、一人でうつむいて歩いていましたよ」
ラミエールは考え込んでしまいました。
『ヴァイオラちゃんをクラーラさんの元に帰すにはどうすればいいのかしら』
ディアーナはラミエールが考え込んでいる様子を見ていましたが、
「そうそう、ラミエールよ、話しておくことがあります」
ラミエールは顔を上げてディアーナの方を見ました、
「ベランジェはあなたを探しているようですよ。以前、私の元へきて、あなたの、行く先を訪ねたので…
地上に降りた後、ルーセント連邦に向かったと話しました。その後、ベランジェは貴方の後を追ってルーセント連邦に向かった様です。
先日もルベール市を探し歩いていたようです」
ベランジェがラミエールを探していると聞き、ラミエールは
「ベランジェ様が私を探して下さっている。うれしい…私もベランジェ様に会いたい。でも、今の私はもう…」
ラミエールはため息をつくと、本棚の上にある星の勇者ベランジェの絵画を見つめました。
ディアーナは静かに言いました。
「ラミエールよ、自分の心に素直になりなさい。あなたが、多くの人々を癒したいという思いは、
今のあなたがどうであれ変わることはありません。大切なのは魂であり考え方であり、それがあなたの魂の価値を決めるのです」
ラミエールは自分の両手を見つめて、
「こんな私を今でも思ってくださっているベランジェ様…確かにお姉様の言うとおりかもしれませんね」
ディアーナはラミエールの優れない顔色を見つめていましたが、
「ラミエールよ…もうひとつ大切な事を伝えておきます、今度はルーセント連邦の危機についてです。
再びエミリアーノ公国のクレメンテ侯爵がルーセント連邦のメビウス地方を軍事力で狙っているようです。
現在の侯爵、クレメンテ・エミリアーノをそそのかしたのは、堕天使ガデーアのようでした。
今度の侵攻ではガデーアもエミリアーノ公国軍に力を貸すつもりのようです。
以前、ルーセント連邦で結核がはやったのもガデーアの仕業で、あなたを天界から追放した後、
ガデーアは結核の病魔をルーセント連邦にばらまくなどして、神の怒りを買い堕天使として天界を追放されたのです」
ラミエールはディアーナの話を黙って聞いています。ディアーナはベランジェの絵を見つめながら
「そして、隣国のクレメンテ・エミリアーノは自国の経済が悪い状況の中、ガデーアの提案を受け入れ、
メビウス地方を取り戻すべく再度軍備の増強を始めたようです。国内政情が不安定な中、
ルーセント連邦を軍事力で押さえこめば、政治基盤が安定すると考えたのでしょう」
ディアーナは悲しそうに、
「利己的になり隣人を愛せなかった民の結末はいつも不幸なものです。
私はこの戦で再び多くの善良な民が傷つく事を恐れています。無益な戦争により、民が血を流し、
涙を流す事がどれだけ天の意志に背く行いであるか、クレメンテ・エミリアーノは若さ故その事実を、十分、理解していません。
無益な戦争は悲劇と憎しみを生む以外、何もありません」
ラミエールは戸惑いました。
「そんな…また戦争が始まるなんて…お姉様どうしたらいいのでしょう」
ディアーナは頷くと
「まずは、ヴァイオラとクラーラの件ですが、私がクラーラさんにヴァイオラを引き取ることができないか話してみます」
「確かにその方がいいですよね、もしお母さんと、ヴァイオラが一緒に暮らせるなら…。
でも、お金の事もあるし、簡単では無さそうですね」
ラミエールはため息をつきました。ディアーナはニコニコしながら机の上のルナフラワーを見つめて、
「大丈夫、クラーラさんに、ルナフラワーの種をあげて、この花の効用を話しましょう。
部屋の浄化や花の優しい香り、月の光で咲く特性などを説明して、月の恵みであるこの花を育てて、それを売ってお金にするようにと…。
地上の花屋さんには、売っていませんからきっと売れますよ」
そして、手から輝く月の星屑をだしました。それはまるで青い透明な水晶の様に輝いていました。ディアーナは、
「月の星屑も地上にはありません。美しい貴石ですので、この石も売れば、きっとお金になります」
ラミエールは安心したような顔をして、
「ありがとう、お姉様。これでクラーラさんとヴァイオラさんは一緒に暮らす事ができますね。
ああ…二人が幸せに暮らしている様子を想像しただけで、なんだか嬉しい…。わたしもいつか…ベランジェ様と…」
ラミエールは、嬉しそうに言いました。
「ラミエール、もし二人が幸せになったら、あなたも幸せになれそうですか?」
ディアーナが訪ねるとラミエールは静かに頷きました。ディアーナは静かにラミエールに言いました。
「ラミエールよ、あなた自身よく理解していると思いますが、ガデーアには気をつけなさい。
ガデーアは嫉妬深く、攻撃的な魔法を得意とする漆黒の翼の堕天使です。
ベランジェはあなたを聖なる惑星から追放するきっかけをつくった、ガデーアを憎んでいます。
私からベランジェに、あなたの身辺と住んでいる森を話しておきます。
もしガデーアの指揮の下、ルーセント連邦に軍事侵攻をすればベランジェは間違いなくあなたの味方になってくれるでしょう。
ラミエールは何も恐れずベランジェを受け入れることです。貴方は貴方のままでいいのです。何も心配することはありません」
そう話すと雲が月を覆いました。鏡からディアーナの姿がゆっくりと消えていきました。
▲▲▲▲ 2014年7月7日 次回に続く ▲▲▲▲